ラヒの預言書
事の様子を見ていたが、ずっと静観していたラージが口を開く。
「お前は?」
「私はメドゥロ家当主ザシリが次男、ガドランと申します」
四大貴族メドゥロの名前に、周りが一気にざわついた。
その名にラージが、一瞬眉間に皺を寄せる。
「この者と一緒に沐浴をするのは、神官見習いの風紀を乱します。かと言って、女子だからと、特別扱いするのは、不平等でしょう。この者もそれは望まぬはず、なので、この者には私達より後に沐浴をさせ、ここの掃除を代償にしてやらせるのは如何でしょうか?」
「ふむ.......確かに、私も女子の神官見習いの扱いに難儀していたが、その方法なら平等であろう。お前達の未熟な心も振らつかず、励む事が出来よう」
不満そうな顔をしながらも、メドゥロの名前には逆らえないのか、ラージはあっさりとガドランの提案を受け入れた。
「差し当っては、この者はこのまま自分の部屋に連れて行きますが、宜しいか?」
「.......許そう」
ガドランが腕の中で固まったままの身体を軽く押すと、ガクンと膝が抜けるのを感じて、慌てて抱き上げた。
ずっと張り詰めていた気が抜けたのか、黙って身を任せる姿が何ともガドランの心を惹き付ける。
部屋に戻り、寝台にそっと下ろしてやると、大きく息を吐くのが聞こえた。
「大丈夫か?」
「.......はい、情けない所を見せました。とても助かりました」
「女の身である限り、この先色々言われるだろうが、張り合うだけじゃなく、上手く受け流し、すり抜ける事を覚えろ。」
「はい。そうします」
幾分か声に元気が戻ったのを感じて、安堵していると、その者は、自ら深く被っていたフードをおろして、ガドランを見上げた。
先程の不安そうな顔ではなく、優しく目を細めた可愛らしい笑顔だった。
「私の名前はソルと申します。これから宜しくお願いします。ガドラン様」
「.......ガドランでいい」