ラヒの預言書
鏡に向かって確認すると、さっきの金細工が自分の頬の近くで揺れていた。
「同じ.......」
「そうだ.......決して忘れるな」
「はい.......」
「祭儀の時は必ず身に着けて来る様に、お前が私のモノだと言う証だ」
「.......はい」
窓から差す陽の光に反射して、キラキラと壁に光の粒が散らばる。
もう進むしかない。
決心をより強く心に刻む。
「最後に一つ。正式な場ではないが、誓いの儀式を行う」
「はい.......私は何を?」
「そのままじっとしていればよい」
「はい」
儀式とは何なのか好奇心で眺めていると、机に置いていた手に、キルバルの綺麗な手が上から覆う様にソルの手を包んできた。
「目を閉じろ.......」
「えっ?!」
「さぁ......」
動揺しながらもキルバルの瞳を見上げると、いつもとは少し違う真剣な瞳が私を見つめていた。
「.......はい」
鼓動が早くなって行くのを感じながら、そっと瞳を閉じてみる。
少し間があってから、額に柔らかく温かい感触が伝わって来た。
(唇…)
鼓動が飛び跳ねているけれど、全く嫌な感じはしなかった。
額に口付けを受けていた。
まるで神の洗礼を受ける様な神聖な気持ちになる。
唇が離れて、そっと瞳を開けると陽の光を背にしたキルバルと目があった。
まるで、神殿の壁画にある太陽神レルーガが地上に降り立った時の様で、泣きたくないのに涙が零れた。
「.......泣くな」
切なそうな瞳をソルに傾けると、そっと頬の涙を拭った。
この人はきっといつか、この国を統べる人になるだろう。
そんな予感がしてソルの心はざわめいた。