出稼ぎ公女の就活事情。
突然訪れてきたわたしに、副隊長さんはびっくりした顔をしている。
しかもわたしったら走りっぱなしで髪も乱れているてボロボロ、服は葉っぱと砂まみれ。
たぶん宿で薄くした化粧も汗でグダグダだろうと思う。
そんなのが必死の形相で駆け寄ってきたら、そりゃびっくりもするわよね。
「……リディアちゃん?」
驚きすぎてか、耳がピンと立っている。
休憩中だったのか、手には飲み物の入ったカップ。
他の周りにいる人たちも各々カップや食べかけのパンを手に持って、ポカンとこちらを見返している。
副隊長さんの前に立ったわたしは、リルに取り次ぎを頼もうと口を開いたけれど、出てくるのは荒い息ばかり。
なのでポケットの中から貼り紙を取り出して開いて見せた。
「あれ?それ」
ハアハアと荒い息を大急ぎで整える。
うぅ、もうへたり込みたい。
「大丈夫?とりあえず座る?」
わたしのその様子に、まずは休ませることが先と判断したのか、副隊長さんは「こんなのしかないけど」と近くにあった木箱を示してくれる。
もう限界だったわたしは遠慮なくそこに座らせてもらった。
別の人が飲み物の入ったカップを渡してくれる。
兎の獣人さんかな?
長く垂れた耳が可愛い。
さっそくいただく。
中身はよく冷えたアイスティーだった。
スッキリしていて飲みやすい。
ほんのり甘味もあるから、蜂蜜入りみたい。
ほっとする甘さに一息ついた頃、リルがやってきた。
「見送りに来てくれたんですか?あとで『銀の雛亭』にこちらから顔を見せに行くつもりだったんですが」
丁寧な口調で言うリルに、そうだったのかとほっとした。
何も言わずにさよならするつもりではなかったのだ。ちゃんと後でまた来てくれるつもりだったのね。
ほんの少しわたしを起こさずに宿を出て行ったリルを薄情者、と思ったのは内緒にしておこう。
「ううん。そうじゃなくて」
わたしは頭を振って膝に置いた手の中で握っていた求人広告の貼り紙を開く。
「リディアちゃんはそれを見てきてくれたみたいだよ?」
と、副隊長さんが横から言うのに、わたしは頷いた。
「これ、わたしを雇ってほしいの」
わたしはできるだけキリッとして、リルを見上げた。
リルはと言えば、予想だにしない言葉だったように目を見開いて、わたしを見つめていた。
とりあえず落ち着ける場所へと、リルはわたしを停泊していた船内の貴賓室らしき部屋に案内してくれた。
落ち着いた色合いのアイボリーのカーテンに淡いブラウンの毛足の長い絨毯。革張りのソファーセットに上品なカーブを描く硝子のテーブル。
外から見るよりも、船内はずっと立派な造りだ。
客を招くための部屋だから、この部屋はより上質な家具を使っているのだろうけれど。
あのテーブルだけで、金貨が何枚いるのかしら。
金貨だけでは足りないかも知れない。
白金貨が数枚?
それとももしかしたら数十枚?
硝子の一枚板の裏側に細かな透かし彫りの模様が美しいテーブルは、確実に我が家--つまりヴィルトル公国の王城にあるものよりお高い。
というかあまりにレベルが違いすぎてもういくらするものか、さっぱりわからない。
わかるのはきっととんでもなくお高いということだけだ。
リルが手ずからお茶を入れてくれて、パウンドケーキのお皿と一緒にわたしの前に置いてくれるけれど。
そのお茶のカップやパウンドケーキの小皿もお高そうで、手を伸ばすのも緊張してしまう!
わたしは求人広告を見て応募にきたのよ?
なのにこのお客様扱いはやり過ぎだと思う。
もっと雑な扱いをしてくれた方が落ち着けるのに。
そう胸の中で呟きながらも、わたしは懸命になんとか雇ってもらえるようにお願いした。
「ここ、3ヶ月で白金貨10枚ってあるでしょ?これだけあれば学費に足りるの。ううん。学費は白金貨8枚だからお小遣いだってあげられる。わたし、一生懸命頑張るから!」
訴えているうちに緊張はどこかへ飛んでいってしまった。
力んだあまり、ついテーブルを軽く叩いてしまう。
ティーカップが皿の上で跳ねて、カチャンと音を立てた。
しかもわたしったら走りっぱなしで髪も乱れているてボロボロ、服は葉っぱと砂まみれ。
たぶん宿で薄くした化粧も汗でグダグダだろうと思う。
そんなのが必死の形相で駆け寄ってきたら、そりゃびっくりもするわよね。
「……リディアちゃん?」
驚きすぎてか、耳がピンと立っている。
休憩中だったのか、手には飲み物の入ったカップ。
他の周りにいる人たちも各々カップや食べかけのパンを手に持って、ポカンとこちらを見返している。
副隊長さんの前に立ったわたしは、リルに取り次ぎを頼もうと口を開いたけれど、出てくるのは荒い息ばかり。
なのでポケットの中から貼り紙を取り出して開いて見せた。
「あれ?それ」
ハアハアと荒い息を大急ぎで整える。
うぅ、もうへたり込みたい。
「大丈夫?とりあえず座る?」
わたしのその様子に、まずは休ませることが先と判断したのか、副隊長さんは「こんなのしかないけど」と近くにあった木箱を示してくれる。
もう限界だったわたしは遠慮なくそこに座らせてもらった。
別の人が飲み物の入ったカップを渡してくれる。
兎の獣人さんかな?
長く垂れた耳が可愛い。
さっそくいただく。
中身はよく冷えたアイスティーだった。
スッキリしていて飲みやすい。
ほんのり甘味もあるから、蜂蜜入りみたい。
ほっとする甘さに一息ついた頃、リルがやってきた。
「見送りに来てくれたんですか?あとで『銀の雛亭』にこちらから顔を見せに行くつもりだったんですが」
丁寧な口調で言うリルに、そうだったのかとほっとした。
何も言わずにさよならするつもりではなかったのだ。ちゃんと後でまた来てくれるつもりだったのね。
ほんの少しわたしを起こさずに宿を出て行ったリルを薄情者、と思ったのは内緒にしておこう。
「ううん。そうじゃなくて」
わたしは頭を振って膝に置いた手の中で握っていた求人広告の貼り紙を開く。
「リディアちゃんはそれを見てきてくれたみたいだよ?」
と、副隊長さんが横から言うのに、わたしは頷いた。
「これ、わたしを雇ってほしいの」
わたしはできるだけキリッとして、リルを見上げた。
リルはと言えば、予想だにしない言葉だったように目を見開いて、わたしを見つめていた。
とりあえず落ち着ける場所へと、リルはわたしを停泊していた船内の貴賓室らしき部屋に案内してくれた。
落ち着いた色合いのアイボリーのカーテンに淡いブラウンの毛足の長い絨毯。革張りのソファーセットに上品なカーブを描く硝子のテーブル。
外から見るよりも、船内はずっと立派な造りだ。
客を招くための部屋だから、この部屋はより上質な家具を使っているのだろうけれど。
あのテーブルだけで、金貨が何枚いるのかしら。
金貨だけでは足りないかも知れない。
白金貨が数枚?
それとももしかしたら数十枚?
硝子の一枚板の裏側に細かな透かし彫りの模様が美しいテーブルは、確実に我が家--つまりヴィルトル公国の王城にあるものよりお高い。
というかあまりにレベルが違いすぎてもういくらするものか、さっぱりわからない。
わかるのはきっととんでもなくお高いということだけだ。
リルが手ずからお茶を入れてくれて、パウンドケーキのお皿と一緒にわたしの前に置いてくれるけれど。
そのお茶のカップやパウンドケーキの小皿もお高そうで、手を伸ばすのも緊張してしまう!
わたしは求人広告を見て応募にきたのよ?
なのにこのお客様扱いはやり過ぎだと思う。
もっと雑な扱いをしてくれた方が落ち着けるのに。
そう胸の中で呟きながらも、わたしは懸命になんとか雇ってもらえるようにお願いした。
「ここ、3ヶ月で白金貨10枚ってあるでしょ?これだけあれば学費に足りるの。ううん。学費は白金貨8枚だからお小遣いだってあげられる。わたし、一生懸命頑張るから!」
訴えているうちに緊張はどこかへ飛んでいってしまった。
力んだあまり、ついテーブルを軽く叩いてしまう。
ティーカップが皿の上で跳ねて、カチャンと音を立てた。