出稼ぎ公女の就活事情。
「……お金のため?」
ドキンと心臓が跳ねた。
それはそう。
お金のため。
広告に提示されたお給金は白金貨10枚。
これは破格の金額。
普通、貴族の邸に使用人として上がっても、一月に金貨数枚程度。
だけど人間を獣人の国でしかも短期間とはいえ獣人のそばで雇おうと思うならこのくらいの額が必要なのかもとも思う。
「それは、そう」
本当にそれだけなのかと言われれば違う。
それだけじゃない。
だけど。
それは言えない。
わたしは俯いて、息を一つ吐く。
「それだけあれば、わたしも国に帰れるから」
国に帰る。
それはわたしにとってもいいこと。
いいことのはずだ。
帰って、どこかへ、誰かのもとにお嫁に行く。
すでに充分嫁き遅れだから、早く帰れるのはいいこと。
このままこの国でいても、結局まともにお金を稼ぐことも出来ないまま国に帰らされるだろう。
すでにわたしが国を出て三年。
長すぎるほどの時間が経っている。
馬鹿げた我が儘に目を瞑ってもらえるには長すぎる時間だと思う。
本当によく連れ戻しに来ないわよね。
間違いなく、わたしの居場所も、様子も、国の父にもフランシスカの国王様にも、義兄様にも筒抜けなのだ。それでもわたしの我が儘に目を瞑ってくれている。
わたしはその人たちのためにも早く帰らなくてはいけない。
本当はいい加減諦めるべき。
「お願いします。3ヵ月、わたしを雇って下さい」
あと、3ヶ月。
もし途中でまたクビになっても、それで国に帰ろう。
わたしは立ち上がって、精一杯頭を下げた。
最後の我が儘だから。
3ヶ月だけ。
あなたのそばにいさせてください。
それで、もう我が儘は言わないから。
口には出せないけれど。
胸の奥でだけ、そう願う。
今でもあなたが好きだと、気付いてしまったから。
♢♢♢♢♢
「わかりました」
と、リルは確かにそう言った。
自分から雇ってくれと言っておいて、わたしは驚いてしまう。
だって、リルは知っているのだ。
わたしが誰かを--。
出稼ぎに来ていると言っても、わたしは一国の公主で。
まだフランシスカという、知己の国にいるからこそ許されている我が儘。
それを他の国に、まして内海とはいえ海の向こうしかも獣人の国に行くなど、あまりにも度が過ぎている。
「……いいの?」
誰かが連れ戻しにくるかも知れない。
もしかしたら、獣人というだけで、言いがかりをつけてくる人だっているかも知れない。
わたしを雇うということは、厄介事を背負うかも知れないこと。
わたしの身分を知っているリルは、そのことも知っているのに。
「応募してきたのは、あなただけですから」
肩をすくめて言うけれども、そんなの。
「そんなのいないならいないでなんとかなるでしょう?」
「そうでもないんですよ。私は我が儘なので。自分が触れられて気持ちいいと思える人にしか触れられたくないので」
そう言ってリルは笑う。
その笑みが妙に色気があって、わたしは一気に熱が上がってしまいそう。
火照る頬を隠すためにも、わたしは「ありがとう」と顔を伏せてお礼を言った。
ドキンと心臓が跳ねた。
それはそう。
お金のため。
広告に提示されたお給金は白金貨10枚。
これは破格の金額。
普通、貴族の邸に使用人として上がっても、一月に金貨数枚程度。
だけど人間を獣人の国でしかも短期間とはいえ獣人のそばで雇おうと思うならこのくらいの額が必要なのかもとも思う。
「それは、そう」
本当にそれだけなのかと言われれば違う。
それだけじゃない。
だけど。
それは言えない。
わたしは俯いて、息を一つ吐く。
「それだけあれば、わたしも国に帰れるから」
国に帰る。
それはわたしにとってもいいこと。
いいことのはずだ。
帰って、どこかへ、誰かのもとにお嫁に行く。
すでに充分嫁き遅れだから、早く帰れるのはいいこと。
このままこの国でいても、結局まともにお金を稼ぐことも出来ないまま国に帰らされるだろう。
すでにわたしが国を出て三年。
長すぎるほどの時間が経っている。
馬鹿げた我が儘に目を瞑ってもらえるには長すぎる時間だと思う。
本当によく連れ戻しに来ないわよね。
間違いなく、わたしの居場所も、様子も、国の父にもフランシスカの国王様にも、義兄様にも筒抜けなのだ。それでもわたしの我が儘に目を瞑ってくれている。
わたしはその人たちのためにも早く帰らなくてはいけない。
本当はいい加減諦めるべき。
「お願いします。3ヵ月、わたしを雇って下さい」
あと、3ヶ月。
もし途中でまたクビになっても、それで国に帰ろう。
わたしは立ち上がって、精一杯頭を下げた。
最後の我が儘だから。
3ヶ月だけ。
あなたのそばにいさせてください。
それで、もう我が儘は言わないから。
口には出せないけれど。
胸の奥でだけ、そう願う。
今でもあなたが好きだと、気付いてしまったから。
♢♢♢♢♢
「わかりました」
と、リルは確かにそう言った。
自分から雇ってくれと言っておいて、わたしは驚いてしまう。
だって、リルは知っているのだ。
わたしが誰かを--。
出稼ぎに来ていると言っても、わたしは一国の公主で。
まだフランシスカという、知己の国にいるからこそ許されている我が儘。
それを他の国に、まして内海とはいえ海の向こうしかも獣人の国に行くなど、あまりにも度が過ぎている。
「……いいの?」
誰かが連れ戻しにくるかも知れない。
もしかしたら、獣人というだけで、言いがかりをつけてくる人だっているかも知れない。
わたしを雇うということは、厄介事を背負うかも知れないこと。
わたしの身分を知っているリルは、そのことも知っているのに。
「応募してきたのは、あなただけですから」
肩をすくめて言うけれども、そんなの。
「そんなのいないならいないでなんとかなるでしょう?」
「そうでもないんですよ。私は我が儘なので。自分が触れられて気持ちいいと思える人にしか触れられたくないので」
そう言ってリルは笑う。
その笑みが妙に色気があって、わたしは一気に熱が上がってしまいそう。
火照る頬を隠すためにも、わたしは「ありがとう」と顔を伏せてお礼を言った。