出稼ぎ公女の就活事情。
♢♢♢♢♢
いつの間にか海を渡って一月が経つ。
見知らぬ土地でこれまでとは違う環境に生活。
ちょっとした風習やマナーを覚えるだけで頭はいっぱい。でもどれも興味深いものばかりで、知らないことを覚えていくということが楽しい。
ここは獣人の国--ルグランディリア。
わたしの国、ヴィルトルやフランシスカのある西方大陸は人間の大陸。
そこから内海を越えてさらに西のふた周りほど小さな陸地を西に向かった土地が獣人たちの土地だ。
陸地の中央より北西の山脈地帯にカルド王国。
中央より南西の砂漠地帯にあるルグランディリア王国。
ちょうど陸地の中央から半分を二分割にしたような2つの国。
わたしはその二国の国境付近にある大きな街にいる。王都からは離れているけれど、カルド王国との境にあり貿易で栄えた街。
リルたちはそのすぐそばにある北東の基地に所属しているらしい。
リルは街にある別邸から毎日基地に通っていく。
わたしはその別邸に部屋をもらっているのだ。
本邸は王都にあるらしくて、それよりはずっと手狭だとリルは言うけれども、わたしからすればとても別邸とは思えないほどの立派なお邸。
わたしは最初その邸を見たときには驚きのあまりポカンと口を開けて固まってしまった。
西方大陸にある建物とはあまりに違っていたから。
それは2つの平屋建ての建物を回廊で繋げ、その周囲を広い庭が覆っていた。
建物と建物で挟まれた回廊の部分は特に奥庭と呼ばれ、邸によって様々な趣向を凝らすものらしい。
リルの邸のそれは花壇に囲まれた池とその中心に佇む小さな小島。
小島には両端から白い橋が掛けられていて、オレンジ色の屋根の東屋と、一人掛けのチェアーと丸い小さなテーブルが置かれていた。
花壇に植えられているのは。
「……カランコエ」
偶然なのだろうけれど、わたしの好きな花。
『幸福を告げる』
『たくさんのちいさな思い出』
ちいさな星の形や釣り鐘形の花可愛らしい姿も、花のない時も多肉植物のぽってりとした葉も好きだけれど、その花言葉が素敵で、大好きな花。
日の短い時期にしか花を咲かせない植物だからか、一部には布が被せられている。
そうして日の当たる時間を調節して一年中花を咲かせているのだろう。
わたしのこの邸に来てからの日課は朝と夜にリルのグルーミングをして、昼はこの小島の東屋で邸の図書室から借りた本を読み、夕刻すぎにはリルと一緒に食事をとるというもの。
部屋はあきらかに使用人が使うものではなく客室だし、食事も朝昼夜ときちんと出される。
しっかりデザートと食後のコーヒー付きで。
コーヒーはこの辺りでは食後の定番であるらしい真っ黒くて苦みのある飲み物。
最初はびっくりしたけれど、慣れてくると美味しい。リルは何も入れずにブラックかミルクを少しだけ入れて飲むけれど、わたしは砂糖を一杯とミルクをたっぷり入れたカフェオレで飲む。
朝昼のグルーミングの時は、リルはわたしに決まった時間、好きなだけモフモフさせてくれる。
大きな銀狼姿のリルにぎゅっと抱きついてスリスリするのはわたしにとって最高の時間。
だけど。
おかしいわよね?
わたしはリルにお世話係として雇われているはずなのに、なんだかお世話される時間の方がずっと多いような気がするのだ。
と、いうのも--。
いつの間にか海を渡って一月が経つ。
見知らぬ土地でこれまでとは違う環境に生活。
ちょっとした風習やマナーを覚えるだけで頭はいっぱい。でもどれも興味深いものばかりで、知らないことを覚えていくということが楽しい。
ここは獣人の国--ルグランディリア。
わたしの国、ヴィルトルやフランシスカのある西方大陸は人間の大陸。
そこから内海を越えてさらに西のふた周りほど小さな陸地を西に向かった土地が獣人たちの土地だ。
陸地の中央より北西の山脈地帯にカルド王国。
中央より南西の砂漠地帯にあるルグランディリア王国。
ちょうど陸地の中央から半分を二分割にしたような2つの国。
わたしはその二国の国境付近にある大きな街にいる。王都からは離れているけれど、カルド王国との境にあり貿易で栄えた街。
リルたちはそのすぐそばにある北東の基地に所属しているらしい。
リルは街にある別邸から毎日基地に通っていく。
わたしはその別邸に部屋をもらっているのだ。
本邸は王都にあるらしくて、それよりはずっと手狭だとリルは言うけれども、わたしからすればとても別邸とは思えないほどの立派なお邸。
わたしは最初その邸を見たときには驚きのあまりポカンと口を開けて固まってしまった。
西方大陸にある建物とはあまりに違っていたから。
それは2つの平屋建ての建物を回廊で繋げ、その周囲を広い庭が覆っていた。
建物と建物で挟まれた回廊の部分は特に奥庭と呼ばれ、邸によって様々な趣向を凝らすものらしい。
リルの邸のそれは花壇に囲まれた池とその中心に佇む小さな小島。
小島には両端から白い橋が掛けられていて、オレンジ色の屋根の東屋と、一人掛けのチェアーと丸い小さなテーブルが置かれていた。
花壇に植えられているのは。
「……カランコエ」
偶然なのだろうけれど、わたしの好きな花。
『幸福を告げる』
『たくさんのちいさな思い出』
ちいさな星の形や釣り鐘形の花可愛らしい姿も、花のない時も多肉植物のぽってりとした葉も好きだけれど、その花言葉が素敵で、大好きな花。
日の短い時期にしか花を咲かせない植物だからか、一部には布が被せられている。
そうして日の当たる時間を調節して一年中花を咲かせているのだろう。
わたしのこの邸に来てからの日課は朝と夜にリルのグルーミングをして、昼はこの小島の東屋で邸の図書室から借りた本を読み、夕刻すぎにはリルと一緒に食事をとるというもの。
部屋はあきらかに使用人が使うものではなく客室だし、食事も朝昼夜ときちんと出される。
しっかりデザートと食後のコーヒー付きで。
コーヒーはこの辺りでは食後の定番であるらしい真っ黒くて苦みのある飲み物。
最初はびっくりしたけれど、慣れてくると美味しい。リルは何も入れずにブラックかミルクを少しだけ入れて飲むけれど、わたしは砂糖を一杯とミルクをたっぷり入れたカフェオレで飲む。
朝昼のグルーミングの時は、リルはわたしに決まった時間、好きなだけモフモフさせてくれる。
大きな銀狼姿のリルにぎゅっと抱きついてスリスリするのはわたしにとって最高の時間。
だけど。
おかしいわよね?
わたしはリルにお世話係として雇われているはずなのに、なんだかお世話される時間の方がずっと多いような気がするのだ。
と、いうのも--。