出稼ぎ公女の就活事情。
「おはようございます、リディア様。本日はどちらのドレスにいたしましょう?ちなみにオススメはこちらかこちらですわ♪」
昔からひっそり思っていたのだけれど、優秀な侍女さんたちというはドアの前で毎朝聞き耳でも立てているのだろうか。
わたしがベッドから起きるなりノックされて「よろしいですか?」と声がかかる。
入ってくるなり両手にそれぞれドレスを掲げてニッコリ笑うのは、リルがわたしに付けてくれた侍女のミラさん。
うん。
もうこの時点でおかしいわよね?
だって雇われてる分際で侍女って。
もちろん断ろうとはした。
したのだけれど。
「私、リディア様のお世話をするために雇われたんです!いらないってなったらクビになっちゃいます!」
なんて泣きつかれたらお願いするしかない。
クビの辛さはわたしが一番知っている。
きっとこの三年間でどこの誰よりもクビになってると思うもの。
ミラさんが掲げているのは左がフランシスカ風のスカートがたくさん重ねられて広がった薄い紫のドレス。右がこの国、ルグランディリア風のドレス。
ルグランディリアのドレスは薄いシルクの踝までストンとまっすぐ落ちる袖無しのドレスに色鮮やかに刺繍の施された長い一枚布を巻き付けて布の片側だけを下ろす。
いろんな巻き方があって、刺繍の色や模様だけでなく巻き方でも雰囲気がずいぶん変わる。
今日のミラさんは左肩と腰に藍色に黒と赤の刺繍の布を巻き、腰の横でリボンにしてから布の片側を足首まで垂らした可愛らしい巻き方だ。
「おはようございます。ええと、じゃあ右で」
わたしはすぐに答える。
何故なら右の方が断然動きやすくて楽だから。
コルセットもペチコートもクリノリンもいらないなんて、素晴らしい。歩くのも座るのも楽だし、裾を踏む心配もしなくていいんだもの。
ただこれに慣れ過ぎてしまうと国に戻った後が大変そうだ。
「かしこまりました」
と、ミラさんはテキパキした動きでわたしにサーモンピンクの飾り気のないドレスを被せ、その上から朱色の生地に様々な色の糸でいくつもの薔薇の花が刺繍された一枚布を巻いていく。
鮮やかな花弁の中心には小さな宝石が縫い付けられていて、キラキラと光る。
どちらかというと派手よりは地味顔のわたしには艶やか過ぎないかしら。
完全にドレスに負けてる気がするわ。
たぶん着られてる感が半端ない。
ヒールの高い靴を履かされて、椅子に座らされる。
それから髪をうなじの一部だけを篭手で巻いて垂らして、残りをアップされて飾りをつけて、顔に薄く化粧をされて--。
ここまで来てようやく姿見で自分の姿を確認できる。
派手過ぎないかと思ったけれど、刺繍が全体的に淡い色で施されているからか、可愛らしい感じの仕上がりだ。腰は巻いた布に片側の端をねじ込んで白い飾り紐で留められている。
飾り紐の先には小さな銀の釣り鐘形のカランコエ。
「よくお似合いですわ」
一仕事を終えた充足感の滲む声でミラさんが言う。
「ありがとう」
わたしはそうお礼を言ったけれど。
胸の中はモヤモヤだ。
一仕事終えた充足感。
わたし、ここに来てから感じた覚えがないんだもの。
どこをどうとってもお客様待遇。
さすがにこのままじゃ駄目よね?
お給金を貰うからには、きちんとそれだけの仕事をしなければ。
--今日こそ、リルとちゃんと話そう。
いつも、曖昧に誤魔化されているけれど。
しかもその誤魔化し方が……非常に厄介なのだけれども。
今日こそは、とわたしはこっそり胸の内で決意して、ぐっと拳を握った。
昔からひっそり思っていたのだけれど、優秀な侍女さんたちというはドアの前で毎朝聞き耳でも立てているのだろうか。
わたしがベッドから起きるなりノックされて「よろしいですか?」と声がかかる。
入ってくるなり両手にそれぞれドレスを掲げてニッコリ笑うのは、リルがわたしに付けてくれた侍女のミラさん。
うん。
もうこの時点でおかしいわよね?
だって雇われてる分際で侍女って。
もちろん断ろうとはした。
したのだけれど。
「私、リディア様のお世話をするために雇われたんです!いらないってなったらクビになっちゃいます!」
なんて泣きつかれたらお願いするしかない。
クビの辛さはわたしが一番知っている。
きっとこの三年間でどこの誰よりもクビになってると思うもの。
ミラさんが掲げているのは左がフランシスカ風のスカートがたくさん重ねられて広がった薄い紫のドレス。右がこの国、ルグランディリア風のドレス。
ルグランディリアのドレスは薄いシルクの踝までストンとまっすぐ落ちる袖無しのドレスに色鮮やかに刺繍の施された長い一枚布を巻き付けて布の片側だけを下ろす。
いろんな巻き方があって、刺繍の色や模様だけでなく巻き方でも雰囲気がずいぶん変わる。
今日のミラさんは左肩と腰に藍色に黒と赤の刺繍の布を巻き、腰の横でリボンにしてから布の片側を足首まで垂らした可愛らしい巻き方だ。
「おはようございます。ええと、じゃあ右で」
わたしはすぐに答える。
何故なら右の方が断然動きやすくて楽だから。
コルセットもペチコートもクリノリンもいらないなんて、素晴らしい。歩くのも座るのも楽だし、裾を踏む心配もしなくていいんだもの。
ただこれに慣れ過ぎてしまうと国に戻った後が大変そうだ。
「かしこまりました」
と、ミラさんはテキパキした動きでわたしにサーモンピンクの飾り気のないドレスを被せ、その上から朱色の生地に様々な色の糸でいくつもの薔薇の花が刺繍された一枚布を巻いていく。
鮮やかな花弁の中心には小さな宝石が縫い付けられていて、キラキラと光る。
どちらかというと派手よりは地味顔のわたしには艶やか過ぎないかしら。
完全にドレスに負けてる気がするわ。
たぶん着られてる感が半端ない。
ヒールの高い靴を履かされて、椅子に座らされる。
それから髪をうなじの一部だけを篭手で巻いて垂らして、残りをアップされて飾りをつけて、顔に薄く化粧をされて--。
ここまで来てようやく姿見で自分の姿を確認できる。
派手過ぎないかと思ったけれど、刺繍が全体的に淡い色で施されているからか、可愛らしい感じの仕上がりだ。腰は巻いた布に片側の端をねじ込んで白い飾り紐で留められている。
飾り紐の先には小さな銀の釣り鐘形のカランコエ。
「よくお似合いですわ」
一仕事を終えた充足感の滲む声でミラさんが言う。
「ありがとう」
わたしはそうお礼を言ったけれど。
胸の中はモヤモヤだ。
一仕事終えた充足感。
わたし、ここに来てから感じた覚えがないんだもの。
どこをどうとってもお客様待遇。
さすがにこのままじゃ駄目よね?
お給金を貰うからには、きちんとそれだけの仕事をしなければ。
--今日こそ、リルとちゃんと話そう。
いつも、曖昧に誤魔化されているけれど。
しかもその誤魔化し方が……非常に厄介なのだけれども。
今日こそは、とわたしはこっそり胸の内で決意して、ぐっと拳を握った。