出稼ぎ公女の就活事情。
リルを射た鏃には毒が塗ってあった。
わたしがリルを見つけた時、リルの左前脚から肩にかけては紫色に変色して、もう少し発見が遅ければ腕を肩から切り落とすところだった。
救いはわき腹を掠めた鏃には毒が塗られてなかったこと。
そちらにも毒があればリルは命を落としていたはずだ。
「この腕が残っているのはリディのおかげですね」
リルの言葉にわたしは首を振った。
わたしはただ見つけただけだ。
ただの偶然。
リルを助けたのは誰かと言うと侍医。
人間の医者だけれど、慣れないながらもリルを診てくれた。
「わたしは偶然リルを見つけただけだもの。だからリルがわたしに恩を感じる必要なんてない。でもリルの腕が無事だったのは本当に良かったわ」
そう言って、わたしはリルの背中側に回った。
後ろからシャツの袖をリルの腕から抜く。
シャツを手繰り寄せて胸の中に抱き込むと、サッと後ろを向いた。
「えっと。できました」
これで、いいのよね?
抱き込んだシャツからはほんのりリルの体温が感じられて、またわたしの胸はドキドキする。
腕の傷痕に気を取られて、少しだけ収まっていたのに、わたしの心臓はちょっとしたことで騒がしくなるみたい。
つい腕に力が入って、中のシャツをぐしゃぐしゃに丸めてしまう。
「ありがとうございます。少しだけそのまま動かないで下さい」
「うん?」
動かないで?
小首を傾げながらも腕の中のシャツを広げて畳もうとした。
そのわたしの耳になにやら妖しげな音が届く。
まるで、ズボンを脱ぐ音のような--。
「リ、リル?」
まさか、ここで下を脱いでるの?
ちょっと待ってほしいんだけど。
びっくりしてピキンと身体がシャツを広げた状態で固まる。
耳まで赤くなっているだろう自覚がある。
耳を塞いで、目を瞑って、身体を丸めてうずくまりたい気分だけれども、手に持ったシャツのおかげで両手は塞がっている。
「どうぞ、こちらを向いて下さい」
う、うん、とどもりつつ、ギクシャク振り向くと、リルは先ほどと同じく銀狼の姿でクッションに伏せていた。
「すみません。時間があまりないので、軽くブラッシングだけをお願いします」
「……は、はい。あの、ごめんなさい」
時間がなくなったのは、わたしのせいだ。
慌ててブラシを手に取った。
いけない。落ち着かないと。
逸る気持ちのままでブラッシングしてしまったらきっと雑になったり失敗してしまう。
でなくても不器用なんだから、しっかり気を落ち着かせて、慎重に、丁寧に。
自分に言い聞かせて、一度、ブラシを握る手を緩めてもう一度握って、深呼吸した。
自分で言うのもなんなのだけど、わたしって結構なちょろインなのかもって思わずにはいられない。
わりとショッキングなことの連続だったのよね?
リルにお願いするのも緊張したし、わたしを何もできないお姫様扱いでお金を恵んでくれようとしているとしか思えない、そんなリルに悲しかったり落ち込んだり悔しかったりちょっぴり腹立たしかったり。
突然世話をしますか?ってシャツを脱がせようとするリルに焦ったり恥ずかしかったり。
なのにリルのふわふわな毛をブラッシングしていると、その気持ち良さにうっとりして幸せな気分になってしまう。
まるでモフモフふわふわの魔法。
なんだろう。
ふと、したくなってしまった。
リルは愛玩動物でもないし、男の人だし、きっと恥ずかしいこと。
だけど。
ドキドキする。
心臓も、そして近づけていく唇も。
ドキドキ。
ドキドキ。
自分の心臓の音を意識しながら、わたしふいに湧き上がった衝動に素直に従ってしまう。
チュッと耳の横にキスをする。
わたしがリルを見つけた時、リルの左前脚から肩にかけては紫色に変色して、もう少し発見が遅ければ腕を肩から切り落とすところだった。
救いはわき腹を掠めた鏃には毒が塗られてなかったこと。
そちらにも毒があればリルは命を落としていたはずだ。
「この腕が残っているのはリディのおかげですね」
リルの言葉にわたしは首を振った。
わたしはただ見つけただけだ。
ただの偶然。
リルを助けたのは誰かと言うと侍医。
人間の医者だけれど、慣れないながらもリルを診てくれた。
「わたしは偶然リルを見つけただけだもの。だからリルがわたしに恩を感じる必要なんてない。でもリルの腕が無事だったのは本当に良かったわ」
そう言って、わたしはリルの背中側に回った。
後ろからシャツの袖をリルの腕から抜く。
シャツを手繰り寄せて胸の中に抱き込むと、サッと後ろを向いた。
「えっと。できました」
これで、いいのよね?
抱き込んだシャツからはほんのりリルの体温が感じられて、またわたしの胸はドキドキする。
腕の傷痕に気を取られて、少しだけ収まっていたのに、わたしの心臓はちょっとしたことで騒がしくなるみたい。
つい腕に力が入って、中のシャツをぐしゃぐしゃに丸めてしまう。
「ありがとうございます。少しだけそのまま動かないで下さい」
「うん?」
動かないで?
小首を傾げながらも腕の中のシャツを広げて畳もうとした。
そのわたしの耳になにやら妖しげな音が届く。
まるで、ズボンを脱ぐ音のような--。
「リ、リル?」
まさか、ここで下を脱いでるの?
ちょっと待ってほしいんだけど。
びっくりしてピキンと身体がシャツを広げた状態で固まる。
耳まで赤くなっているだろう自覚がある。
耳を塞いで、目を瞑って、身体を丸めてうずくまりたい気分だけれども、手に持ったシャツのおかげで両手は塞がっている。
「どうぞ、こちらを向いて下さい」
う、うん、とどもりつつ、ギクシャク振り向くと、リルは先ほどと同じく銀狼の姿でクッションに伏せていた。
「すみません。時間があまりないので、軽くブラッシングだけをお願いします」
「……は、はい。あの、ごめんなさい」
時間がなくなったのは、わたしのせいだ。
慌ててブラシを手に取った。
いけない。落ち着かないと。
逸る気持ちのままでブラッシングしてしまったらきっと雑になったり失敗してしまう。
でなくても不器用なんだから、しっかり気を落ち着かせて、慎重に、丁寧に。
自分に言い聞かせて、一度、ブラシを握る手を緩めてもう一度握って、深呼吸した。
自分で言うのもなんなのだけど、わたしって結構なちょろインなのかもって思わずにはいられない。
わりとショッキングなことの連続だったのよね?
リルにお願いするのも緊張したし、わたしを何もできないお姫様扱いでお金を恵んでくれようとしているとしか思えない、そんなリルに悲しかったり落ち込んだり悔しかったりちょっぴり腹立たしかったり。
突然世話をしますか?ってシャツを脱がせようとするリルに焦ったり恥ずかしかったり。
なのにリルのふわふわな毛をブラッシングしていると、その気持ち良さにうっとりして幸せな気分になってしまう。
まるでモフモフふわふわの魔法。
なんだろう。
ふと、したくなってしまった。
リルは愛玩動物でもないし、男の人だし、きっと恥ずかしいこと。
だけど。
ドキドキする。
心臓も、そして近づけていく唇も。
ドキドキ。
ドキドキ。
自分の心臓の音を意識しながら、わたしふいに湧き上がった衝動に素直に従ってしまう。
チュッと耳の横にキスをする。