出稼ぎ公女の就活事情。
お風呂から上がって昼食の席についていると、わたしの前に白身魚のムニエルとスープを並べていたミラさんが「先ほど旦様から伝言がございました」と言った。
「伝言?」
リルの話が出て、ドキリとしてしまう。
けれど顔には出さないように努め、首を傾げた。
「はい。本日は基地の方から戻れそうにないと。もしかしたら数日泊まり込みになられるかも知れないとのことでしたわ。ですので夕食はお一人で、と」
正直ホッとしてしまった。
けれど、とすぐに思い直す。
朝は何も言っていなかった。
もしかしたらリルはわたしと顔を合わせないように、あるいはわたしが顔を合わせずらいと思って邸に帰らないのではないかと。
そう思い至ると、きゅう、とみぞおちの奥が引きつるように痛んだ。
けれどそれも顔には出さず、わたしはただ小さく頷いた。
「そう。わかりました。ありがとう」
リルがいないのなら、夕食は部屋で取らせてもらおうか。いつもリルと一緒に夕食を食べる食堂はきっと広すぎて一人では落ち着かない。
「あの、ねぇ、ミラさん」
「なんですか?」
「この後の予定なんだけど」
「ああ、どうなさいます?また庭でゆっくりなさいますか?それとも図書室に?」
「ううん」
確かにそれらはわたしのもはや日課だけれど。
「街に出てみたいんです」
そう告げると、ミラさんは途端に困り顔になった。
「街に、でございますか?」
その困り顔にわたしは内心でやっぱり、と思った。
リルはわたしを外に出したくないのね。
思えばこの一月わたしは邸の外に出ていない。
そもそも考えてもみれば、わたしは使用人として雇われたはずなのだけど、お休みの日、というものが決められていないのだ。
だから今日はお休みだから外に出かけよう。という発想がなかった。
逆に言えば仕事らしい仕事をしていないわたしは毎日がお休みみたいなものなのだけれど。
「わたし、そういえばまだ一度も街をちゃんと歩いたことがないなぁって思って。でもこんなドレスだと街では目立ってしまいますよね?なのでもう少し庶民的というか地味な服ってありませんか?」
わたしはミラさんの様子に気づかないフリでにこにこと問いかける。
「ですが、旦那様の許可が……」
「大丈夫です」
わたしはできるだけ胸を張って答えた。
「リルには仕事以外の時間は好きにしていいって今朝言ってもらいましたから」
本当は言ってもらったのではなくわたしが好きにすると言ったのだけれど。
リルがわたしの仕事は朝と夜のグルーミングだけだと言うなら、逆にそれ以外の時間は就業時間ではないはず。ならばリルに行動を縛られる義務もないはずだ。
わたしの言葉に、ミラさんは困惑した様子で視線を彷徨わせる。
それにも気づかないフリで。
「なければわたしの荷物にいくつか服が入っているので出しておいて下さい」
ミラさんはわたし付きの侍女だ。
だから雇い主はリルだけれど、わたしもまた主人。
主人の命に逆らうな、と言外に向けた視線で告げて、わたしは食事を始めた。
胸の中でだけ、小さく「困らせてごめんなさい」と頭を下げて--。
「伝言?」
リルの話が出て、ドキリとしてしまう。
けれど顔には出さないように努め、首を傾げた。
「はい。本日は基地の方から戻れそうにないと。もしかしたら数日泊まり込みになられるかも知れないとのことでしたわ。ですので夕食はお一人で、と」
正直ホッとしてしまった。
けれど、とすぐに思い直す。
朝は何も言っていなかった。
もしかしたらリルはわたしと顔を合わせないように、あるいはわたしが顔を合わせずらいと思って邸に帰らないのではないかと。
そう思い至ると、きゅう、とみぞおちの奥が引きつるように痛んだ。
けれどそれも顔には出さず、わたしはただ小さく頷いた。
「そう。わかりました。ありがとう」
リルがいないのなら、夕食は部屋で取らせてもらおうか。いつもリルと一緒に夕食を食べる食堂はきっと広すぎて一人では落ち着かない。
「あの、ねぇ、ミラさん」
「なんですか?」
「この後の予定なんだけど」
「ああ、どうなさいます?また庭でゆっくりなさいますか?それとも図書室に?」
「ううん」
確かにそれらはわたしのもはや日課だけれど。
「街に出てみたいんです」
そう告げると、ミラさんは途端に困り顔になった。
「街に、でございますか?」
その困り顔にわたしは内心でやっぱり、と思った。
リルはわたしを外に出したくないのね。
思えばこの一月わたしは邸の外に出ていない。
そもそも考えてもみれば、わたしは使用人として雇われたはずなのだけど、お休みの日、というものが決められていないのだ。
だから今日はお休みだから外に出かけよう。という発想がなかった。
逆に言えば仕事らしい仕事をしていないわたしは毎日がお休みみたいなものなのだけれど。
「わたし、そういえばまだ一度も街をちゃんと歩いたことがないなぁって思って。でもこんなドレスだと街では目立ってしまいますよね?なのでもう少し庶民的というか地味な服ってありませんか?」
わたしはミラさんの様子に気づかないフリでにこにこと問いかける。
「ですが、旦那様の許可が……」
「大丈夫です」
わたしはできるだけ胸を張って答えた。
「リルには仕事以外の時間は好きにしていいって今朝言ってもらいましたから」
本当は言ってもらったのではなくわたしが好きにすると言ったのだけれど。
リルがわたしの仕事は朝と夜のグルーミングだけだと言うなら、逆にそれ以外の時間は就業時間ではないはず。ならばリルに行動を縛られる義務もないはずだ。
わたしの言葉に、ミラさんは困惑した様子で視線を彷徨わせる。
それにも気づかないフリで。
「なければわたしの荷物にいくつか服が入っているので出しておいて下さい」
ミラさんはわたし付きの侍女だ。
だから雇い主はリルだけれど、わたしもまた主人。
主人の命に逆らうな、と言外に向けた視線で告げて、わたしは食事を始めた。
胸の中でだけ、小さく「困らせてごめんなさい」と頭を下げて--。