出稼ぎ公女の就活事情。
「わ……ぁ」
木々の隙間から見える景色に、わたしは感嘆の声を上げた。
フランシスカのものと比べると一様に背の低い建物はどれも平屋造りで全体的にいくつもの太い柱で支えられている。
道は目に入る範囲はすべて赤い煉瓦の石畳。
通りを過ぎる人は様々な色を巻き付けていて、華やかだ。
庶民でも、服装は基本的にわたしが邸で着ていたのと同じ。ただ巻き付ける布の長さと太さは違うみたい。動きやすさ重視なのか、金銭的に布の量を抑えるためか、膝の上あたりまでしか垂らされていない。
刺繍も控えめか、もしくは刺繍ではなくいくつもの色で染めた布を巻いているよう。
男性はシャツにズボン。
腰か頭にやはり刺繍や染めの入った布を巻いている。少しお金持ちらしき人や年配の人になるとその上から薄いベストを羽織るのが定番みたい。
獣人の国だから、通り過ぎる人のほとんどが獣人らしい獣の耳や尻尾がある。
種族は様々でいろんな形の耳や尻尾があちこちで揺れている。
広い通りを街の中心に抜けた場所。
ちょうど街の中心地に当たるのだろう場所には大きな広場があった。
街の市なのだろうけれど、フランシスカのそれのように布が地面に敷かれていてその上に物が並べられている露店はなく、いくつもの天幕が無造作に並んでいた。天幕の入り口は開かれていて、その中にたくさんの商品が並べられているのが見える。
「フランシスカとは違うんですね」
天幕の屋根に垂らされた布の色と模様によって店の扱っている品物がわかるようになっているみたい。
「西部大陸と違ってこちらは砂漠がありますから。時折砂漠からの渇いた強い風が吹き込んでくるのですよ。遮るものがなければ風に飛ばされて砂まみれになります」
隣を歩くカルダさんがそう言って説明してくれる。
「黄色い布は食料を扱っている店。青い布は糸や布を扱っている店です。あちらの緑は植物の種やハーブ、薬草なども店によってはおいています」
差し示される天幕を視線で追うと、だいたい同じ物を扱う店ごとに区画が別れていることがわかった。
「あのあたりは?」
そうして見ると一部に染めのない布にかすれたインクで何かの絵が描かれた布が垂らされている一画がある。
「あれはごちゃ混ぜです」
「ごちゃ混ぜ?」
「実際に見た方が早いでしょう」
そう言って歩いていくカルダさんの背を追う。
--なるほどごちゃ混ぜね。
皿のような食器類と古びて色の変わりかけたインク壺と錆びた釘が一緒に並んだ店。
たくさんの布が並んだ中に陶器の壺やフライパンが混じる店。
村のバザールみたい。
ヴィルトルの田舎町では休日になると教会に人が集まって手作りをした小物やいらなくなった道具を安く売り買いする。
一つの天幕の中に様々な物が混ざり合って並ぶ様はそのバザールの軒先に似ていて、少し懐かしい気持ちになった。
ひとしきり市を見てわたしたちは一度休憩することにした。入口に三段の短い階段があり、少し床が嵩上げされたテラス席のあるおしゃれなお店。
あんみつ、とかいうスイーツがオススメらしい。
カルダさんがこんな可愛らしいお店を知っているとは意外。と思ったら事前に邸でメイドさんたちにオススメの店を聞いていたらしい。
カルダさんの案内で街に出るなんてどれだけ居心地の悪いことかと来るまでは不安しかなかったけれど、来ていると意外と悪くない。
何故か黒シャツに黒のズボン黒の腰布と黒ずくめで余計威圧感が増した気もするカルダさんだけど、一歩下がって着いてきながら時折道を指図するだけで、基本的に好きなようにフラフラさせてくれているからかしら?何故か存在感が薄くて歩いていると気にならない。
でもわたしが一番生きたい所に行くには、カルダさんの存在は邪魔なのよね。
なんといっても職業紹介所だ。
さすがにカルダさんを連れてはいけない。
ううん、とこっそり後ろを歩くカルダさんに気づかれないように呻いて、目の前の階段を上った。
木々の隙間から見える景色に、わたしは感嘆の声を上げた。
フランシスカのものと比べると一様に背の低い建物はどれも平屋造りで全体的にいくつもの太い柱で支えられている。
道は目に入る範囲はすべて赤い煉瓦の石畳。
通りを過ぎる人は様々な色を巻き付けていて、華やかだ。
庶民でも、服装は基本的にわたしが邸で着ていたのと同じ。ただ巻き付ける布の長さと太さは違うみたい。動きやすさ重視なのか、金銭的に布の量を抑えるためか、膝の上あたりまでしか垂らされていない。
刺繍も控えめか、もしくは刺繍ではなくいくつもの色で染めた布を巻いているよう。
男性はシャツにズボン。
腰か頭にやはり刺繍や染めの入った布を巻いている。少しお金持ちらしき人や年配の人になるとその上から薄いベストを羽織るのが定番みたい。
獣人の国だから、通り過ぎる人のほとんどが獣人らしい獣の耳や尻尾がある。
種族は様々でいろんな形の耳や尻尾があちこちで揺れている。
広い通りを街の中心に抜けた場所。
ちょうど街の中心地に当たるのだろう場所には大きな広場があった。
街の市なのだろうけれど、フランシスカのそれのように布が地面に敷かれていてその上に物が並べられている露店はなく、いくつもの天幕が無造作に並んでいた。天幕の入り口は開かれていて、その中にたくさんの商品が並べられているのが見える。
「フランシスカとは違うんですね」
天幕の屋根に垂らされた布の色と模様によって店の扱っている品物がわかるようになっているみたい。
「西部大陸と違ってこちらは砂漠がありますから。時折砂漠からの渇いた強い風が吹き込んでくるのですよ。遮るものがなければ風に飛ばされて砂まみれになります」
隣を歩くカルダさんがそう言って説明してくれる。
「黄色い布は食料を扱っている店。青い布は糸や布を扱っている店です。あちらの緑は植物の種やハーブ、薬草なども店によってはおいています」
差し示される天幕を視線で追うと、だいたい同じ物を扱う店ごとに区画が別れていることがわかった。
「あのあたりは?」
そうして見ると一部に染めのない布にかすれたインクで何かの絵が描かれた布が垂らされている一画がある。
「あれはごちゃ混ぜです」
「ごちゃ混ぜ?」
「実際に見た方が早いでしょう」
そう言って歩いていくカルダさんの背を追う。
--なるほどごちゃ混ぜね。
皿のような食器類と古びて色の変わりかけたインク壺と錆びた釘が一緒に並んだ店。
たくさんの布が並んだ中に陶器の壺やフライパンが混じる店。
村のバザールみたい。
ヴィルトルの田舎町では休日になると教会に人が集まって手作りをした小物やいらなくなった道具を安く売り買いする。
一つの天幕の中に様々な物が混ざり合って並ぶ様はそのバザールの軒先に似ていて、少し懐かしい気持ちになった。
ひとしきり市を見てわたしたちは一度休憩することにした。入口に三段の短い階段があり、少し床が嵩上げされたテラス席のあるおしゃれなお店。
あんみつ、とかいうスイーツがオススメらしい。
カルダさんがこんな可愛らしいお店を知っているとは意外。と思ったら事前に邸でメイドさんたちにオススメの店を聞いていたらしい。
カルダさんの案内で街に出るなんてどれだけ居心地の悪いことかと来るまでは不安しかなかったけれど、来ていると意外と悪くない。
何故か黒シャツに黒のズボン黒の腰布と黒ずくめで余計威圧感が増した気もするカルダさんだけど、一歩下がって着いてきながら時折道を指図するだけで、基本的に好きなようにフラフラさせてくれているからかしら?何故か存在感が薄くて歩いていると気にならない。
でもわたしが一番生きたい所に行くには、カルダさんの存在は邪魔なのよね。
なんといっても職業紹介所だ。
さすがにカルダさんを連れてはいけない。
ううん、とこっそり後ろを歩くカルダさんに気づかれないように呻いて、目の前の階段を上った。