出稼ぎ公女の就活事情。
「あら」

 ふふ、とミラさんは声を上げて笑った。

「私のことなんてお気になさらないで下さい。私たちのような邸メイドにはなかなか外を出歩く機会がないんですから、むしろご褒美ですわ」
「そう?」

 出歩くといっても道中ほとんど馬車で、しかもとんぼ返りなんだけど。

「ええ。街の様子を眺めるだけでもいい気分転換になりますもの」

ーーどうせならご一緒にスイーツでも頂けたらもっとラッキーでしたけどね?
 
 茶目っ気のあるもの言いにわたしも自然と頬が緩む。

 ミラさんは素敵な女性だ。
 優しくて、情があって、とっても可愛らしい。

ーー絶対、モテるわよね

 恋人がいると言っていたが、お相手はきっと心配でならないのではないだろうか。
 ミラさんが浮気をする質とは思わないが、声をかけてくる相手は多いはずだ。

 ほんの少しだけ。
 羨ましい、と思ってしまった。

 モテることが、ではなく自由に恋をしたり時には駆け引きをしたり。
 好きな人と家庭を築いていけるミラさんたちが。

 貴族だから、王族だから、でなくても皆が皆自由に好きな人と恋人になれるわけでも結婚ができるというわけでもない。
 よしんば大恋愛で結ばれたとしても幸せになれるとも限らない。

 それでも羨ましいと思ってしまった。

……バカね。


 いつまでグズグズ考えているつもりか。
 わたしの国は貧乏公国ではあるけれど、それでも国を出るまで一度だってひもじい思いなんてしたことがない。
 寝るところにも着るものにも困ったことなんてない。
 掃除だって料理だって洗濯だって他の誰かがしてくれていた。

 今だってこうしてリルがわたしに人をつけてくれているのだって、わたしの身分が関係ないはずがないのだ。

 またも無意識に指先は耳もとを探ってしまう。


「リディア様」

 どこか改まってわたしを呼ぶミラさんの声に、わたしはそちらを見た。

 わたしを見るミラさんの顔は、悪戯っぽく微笑んでいる。


「カランコエの花言葉をご存知ですか?」

 



 
< 61 / 86 >

この作品をシェア

pagetop