出稼ぎ公女の就活事情。
 国を出た当初、わたしはアンナと共に安宿に泊まりながら仕事を探す生活をしていた。
 なかなか仕事の見つからなかったわたしと違い、もともと優秀な侍女であったアンナはあっという間に寮付きの仕事を見つけ出し、交渉の末その寮の部屋に妹という触れ込みのわたしを一緒に住めるようにしてくれた。
 小さなキッチンが付いた小部屋と寝室、お風呂とトイレという二人で住むには充分な部屋。
 小部屋はテーブルと椅子を二つ置けばもういっぱいいっぱいな広いとはいえない部屋で、寝室もベッドを2つ並べるスペースもなくて、仕方なく毛の長い絨毯を床に敷き、その上に布団を直接二枚並べて敷いた。
 それでも布団の一部は重なり合った状態だったけれど、わたしたちは二人ともどちらかというと小柄だったから窮屈すぎるということはなかった。

 そうしてその部屋で国を出てからずっと二人で暮らしていたけど。

 アンナは雇い主の男性と恋仲になりしばらく前から結婚を申し込まれていたのだ。

 わたしがそのことを知ったのはたったの一月前。
 同じ部屋に住んで、いつも夕食を共にして、国を出てから誰よりも近くにいるし誰よりもアンナのことは知っていると勝手に思っていたけれど。

 全然そんなことはなかったのだ。

 それは偶然で。
 あの日わたしは仕事をクビになった。 
 クビになっていつもより早く、昼過ぎに部屋に戻った。
 いえ、正確には戻ろうとして、部屋の扉の前で内側から聞こえてくる会話を、立ち聞きした。

 一人はアンナで。
 もう一人はすぐにはわからなかったけれど、聞いている内に一度だけ挨拶をしたアンナの働く店の店主だと気づいた。

「いつまでお嬢様のお守りをしているんだ」

 そんな声が聞こえて、わたしは固まった。
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