朧咲夜2-貫くは禁忌の桜と月-【完】


「憶えてるよ、遙音くんのこと。忘れるわけないよ。あたしが……あたしたちが助けてあげられなかった、から……」
 

松生が絞り出すように話す。


……俺はあくまで当事者側の感情しか知らない。


遙音の気持ちは理解できても、松生のような周囲の人間の気持ちに沿うことは難しい。
 

咲桜は、しんとした瞳で二人を見ている。
 

――松生の手が、するりと咲桜から離れた。


遙音が握った手に、そっと添える。


「ごめんなさい……あのとき、なにも出来なくて……」
 

松生は、なにも出来ないでいたことが忘れられなかった原因かもしれない。


それでも遙音は、松生の存在に救われていただろう。


「いま、元気でいてくれて……ありがとう……。またあえて、うれしいです」
 

松生の透明な瞳から透明な涙が零れ落ちる。


微笑むように瞳が細められると、眦の残っていたそれも一緒に落ちた。


「……あたしこそ、忘れてると思ったから……。顔合わせて、昔のこと思い出させたら嫌だなって、思って逃げた。ごめんなさい」


「忘れるわけない。笑満ちゃんは……最後まで俺に優しかった唯一の子なんだから」

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