朧咲夜2-貫くは禁忌の桜と月-【完】
落ち込んでしまった。
咲桜は俺と違い警察内部の話を知るようなことはないから、逃げたとは知らない。
約束が破られたことがショックなのだろう。
「仕方ない。在義さんの仕事ってそういうのだし」
……在義さんをかばうためとはいえ、嘘を言うのは気が引ける。
優しさのために嘘をつかないという評価をもらったばかりだから、なおさら胸が苦しい。
優しさのために嘘をつくのではなくて、痛みを与えないために真実を話さないだけだ。
……どっちにしろ、咲桜にしたら話してくれって思うよな。
咲桜はどんどん小さくなる。
「取りあえず、今日は帰るよ。在義さんには、俺からも時間を作ってもらうように話すから」
ぽんぽん、最後とばかりに頭を軽く叩いた。はっと咲桜の顔が仰向いた。
「もう、帰るの?」
光に揺れる瞳に息を呑んだ。
こいつ……こんな儚げな瞳をしていたか?
駄目だ。どんどん惹かれていく。呑まれていく――いっそ溺れてしまいたいくらいだ。
意識が咲桜だけになりそうなのを、迫る危機の現実ひとつで戻した。
「そろそろ帰らないとお隣が殴りこんできそうだからな」
わざと茶化すように言って、手を引いた。
朝間先生のことだから、熊手を持って乗り込んできても今更驚けない。