朧咲夜2-貫くは禁忌の桜と月-【完】
「……でも、流夜くんが先生じゃなかったら、私は逢ってなかったよ」
コト、と箸が机に触れた。あの日の見合い相手が流夜くんでなかったら、自分はどうなっていただろう。
いや、どうもなっていなかった。
今までと変わらず、生きることをゆるしてもらうためにがんばっていた。
胸を張って生きてはいられなかった。
寄りかかっても安心出来る人なんて、知らなかった。
抱き留めてくれる腕を。
やわらかなあたたかさを。
「……そうだね。私も同じ学校だと聞いたときはどうしようかと思ったよ。まさか春芽くんがそれを知らないわけがないしね。知った上でふっかけやがったな、とも思った。……どうだい? 咲桜は、流夜くんで」
「……うん」
それ以上の言葉はない。
在義父さんは「そうか」と呟いて、味噌汁の椀を傾けた。
どうしよう……。
危ない。
さっき別れたばかりなのに、もう流夜くんに逢いたい。
逢って訊きたいことが、たくさん出来てしまった。
少しだけ恨めしく、その原因である在義父さんに気づかれないように睨んだ。