朧咲夜2-貫くは禁忌の桜と月-【完】
side流夜⑤
「咲桜に逢いたい……」
毎日来るのがお決まりの吹雪だけの部署で、項垂れながら呟いた。
最近は毎日咲桜が来てくれる。
ついでに勉強も見てやっているから、負担だけにはさせていないと思いたいところだ。
俺も、今まで付き合った人がいないわけではない。
でも、自分から誰かの存在を望んだのは初めてだった。
傍にいてほしいと願う人。
咲桜を帰したあとは決まって気落ちする。
それを振り切って、なんとか吹雪のところまで来ていた。
のだが、今日はちょっと重症だった。
なにせ咲桜を抱きしめて寝てしまうと言う、自分としては最高の思いをしてしまったのだから。
あー、なんで意識なかったんだろう……。
せめて咲桜を抱きしめている間、意識があったら。
……寝込んでいたからこそ、咲桜はそのままでいてくれたのだろうけど。
いや、もしもの話だ――。
どんな話をしていたかな。
咲桜が少しでも笑ってくれることを話せたらいい。
笑って……あれ? 自分、大概怒らせてしかいないような気がしてきた……。
「なにやってんの。キモいんだけど」
冷徹な声が飛んできた。
本気で考え込んでいるのをキモいって……吹雪は今日も通常運転だった。