演っとけ! 劇団演劇部
 多分保健室で味をしめたのか、試合中に綾奈ちゃんと二人で応援することを狙っているのだろう。
 モテモテだな、綾奈ちゃん。もしかしたらアイドル性は遠藤さんよりもあるかもしれない。
 劇団演劇部に、とも頭を過ぎったけど彼女は役者に向いてないだろう。
 引っ込み思案な性格といい、声量といい、練習を重ねればわからないけど、10月の文化祭には間に合いそうにない。
 そもそも茶華道部(うちの学校では茶道部と華道部が一緒になっている)に所属しているんだから、こっちの誘いに乗るはずもないのだけど。
 そういう考えで言ったら、まだ桜井さんのほうが向いているかもしれない。声量も物怖じしない性格も、まさに演劇向きだろう。
 何故か部活にも入ってないし、女子部員(正確には団員だけど)が遠藤さんしかいないのだから、入ってくれたら有難い。しかし、こちらはこちらで実は既に遠藤さんが勧誘した後で、断られている。
 なんでも部活動以外にやりたいことがあるらしい。らしい、というのはオープンな感じの彼女にしては珍しく、一番仲の良い綾奈ちゃんや遠藤さんにでさえその理由をうやむやにしているからだ。
 まぁ、後になって僕らはそのとんでもない理由を知ることになるのだけど、それは今回の球技大会どころか、文化祭より先の、また別の話だったりする。
 わぁっ、という歓声が突然あがった。
 歓声のモトはわかっている。
 僕らの目の前で起こっていたことだからだ。
 BBチームの完全勝利。
 無失点で第2セットを取り、準決勝に駒を進めたのだ。
(反則だろ、あの強さは)
 相手チームもよほど悔しかったのだろう。親睦を深めるための球技大会で、涙目の生徒までいる。
「まだ勝ち上がっているみたいだな」
 試合を終えた今井らが見学(というか、偵察)をしていた僕らの前で憎まれ口を叩くと
「せいぜい準決勝で足元すくわれねぇように気をつけるんだな」
と言いたいことだけ言って、早々に体育館をあとにした。
 くそっ。
 せめて、それはこっちの台詞だ、とか気の利いたことが言えれば良かったのだけど、そんなことを言う余裕はもう無くなっていた。
 本当にこのままでも勝てるのか。
 体育館の屋根を打ち付ける雨音は、更に激しさを増すばかりだった。
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