演っとけ! 劇団演劇部
 その余裕が仇となるぜ。
 なるといいなぁ。
 もちろんそんなことを考える余裕は殆どなく、僕はボールを追って右往左往しているばかりだ。
 それにしても何でみんなあんなすぐに反応できるのだろう。
「ボールをずっと目で追うより打つ人を観察したほうが早いよ」
 ジョーの弾丸サーブで相手が手間取っているときに、御手洗君がそうアドバイスをくれた。
(なるほど)
 確かに僕はずっとボールを追っていたけど、結局のところ大事なのは相手が打ち返してくる瞬間なのだ。
 フェイントで返してくるにせよ、アタックしてくるにせよ、冷静に観察すると、その前に何かしらのサインがある。
 声を出し合って意識してやっているものばかりではなく、無意識的に体が反応したり、癖みたいなものだったりまで、視線や腕の角度なんかでも、どこに飛んでくるかはある程度、予想が出来るものだ。
 遠藤さんが利一君たちとの試合で全員を呆気に取ったのは、そのサインが全くなかったからだろう。
 体の角度も視線も自分のコートに向いていたのに、ひょいと相手コートにボールを返したのだ。
 いくら力のないボールでもあっさり決まってしまうのも頷ける。
 僕にそんな高度な技術がすぐにできるわけがない。大人しく御手洗君のアドバイスは守備だけに使うことにしよう。
―その謙虚な判断が正しかった。
 僕がレシーブやトスをする回数は倍近くに膨れ上がり、ウソみたいに得点に繋がっていく。
「いいぞー、エイトぉー!」
 さっきまで全く耳に入っていなかった小島の声援が聞こえる。
 ボールが自然と僕のところに飛んでくる。それは僕が事前にボールの来るところに移動しているからだ。
 来ることがわかっているから次の行動を準備することが出来る。
 落ち着いてプレイするとはこういうことなのか。
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