演っとけ! 劇団演劇部
 御手洗君について行くと演劇関係の書物が並べられているところにあっさりたどり着くことができた。
「大体この辺に戯曲とかも含めて揃っていると思うよ」
 『ギキョク』の意味もわかっていない僕に彼は初めて笑顔を見せてそう言った。
(格好良すぎる)
 顔が良くて優しくて、気が利いて、クラスから半分除け者にされている僕に対しても普通に接してくれる。僕が女だったら間違いなく惚れていることだろう。男して非の打ち所がない。親切にしてもらったにもかかわらず、感動と同時にできれば遠藤さんの目の届かないところにいてほしいと思う僕は非の打ちつけるところだらけだ。
「ありがとう、助かったよ」
 僕がお礼を言うと、それ以上何も言わず御手洗君はまた軽く微笑んで文庫本のコーナーのほうへ戻っていった。
 本棚には思っていたよりも色んな種類の演劇の本があった。
僕はいくつかの本を取り出してパラパラとめくったあと、その中から「現代演劇理論」と「舞台の作り方」と「中高生向け台本集」と「シェークスピアの歩み」というタイトルの本を抱えて目立たないように長机の隅の席に座った。本当は個別に仕切られている自習室の席がよかったけど、受験勉強をしている三年生で満席になっていて座れなかった。
 そういえば相田先輩は受験勉強しているのだろうかという疑問が頭の中を通り過たけど、あの人の場合はまず卒業できるかの方が疑わしい。来年も卒業しないで居座っている相田先輩が隣に(正確には遠藤さんと僕の間に)いる高校生活を想像して、身震いしながら本を読み漁った。
 とりあえず僕に必要なことが書いてあったのは四冊中「舞台の作り方」だけで、残りは殆ど読まなかった。というより読めなかった。とにかくそこからわかったことは、まず演劇には役者という表方と、演出家、脚本家、舞台監督、照明、音響、大道具、小道具、メイク、衣装、製作などの裏方に分かれているということだ。通常、演劇部といった校内での活動の場合、役者の人間が裏方を兼ね備えていて、稽古の合間に大道具を作ったり、衣装を縫ったりするらしい。
 
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