演っとけ! 劇団演劇部
 照明や音響には、どこのシーンでどんな照明や音楽にするかを考えるプランニングスタッフと、公演当日に機械の操作をするオペレーションスタッフにまた分けられ、オペ(オペレーションスタッフを略してこう言う)の人は役者ができないので、これも演劇部の場合は持ち回りでやったりする。
 製作は役者のスケジュールを調整したり、チラシやパンフレットを作ったりする言わば雑用を一手に請け負うマネージャー的な立場だけど、これも演劇部には必要ない。
 舞台監督は、演出家と照明、音響スタッフの架け橋になって役者の立ち位置など舞台全体を考える役目で、人数が少ない場合は演出家がまとめてやることが多い。メイクも役者が自分たちでやればいい話だし、脚本(台本や御手洗君が言っていた『戯曲』も同じ意味だった)を書く脚本家も、図書室にたくさん本があるから問題ない。
 つまり遠藤さんが役者で、僕と相田先輩が当日に照明か音響をやるにしても、あと何人か役者が揃わないとどうしようもないということがわかった。少なくても二人、もしくは三人は欲しいところだ。
「俺は何もやらないぞ」
 その日の放課後、今日も人集めがうまく行かず落胆している僕と遠藤さんが屋上で相田先輩と合流し、今後の目標を定めるために僕が必要な人数の話を切り出すと、先輩がイチゴ牛乳を飲みながらごく当たり前のようにそう答えた。
「何でですか?」
 この大変な状況下に全く協力性のない答えが返ってきたことに憤りを感じつつ、僕が興奮気味に理由を聞くと
「何でって、三年は夏前で引退だろ」
と、意外にも正論で返された。
「でも演劇部は劇団であって部活動から外れてるんだから、他の三年生みたいに引退とかしなくてもいいじゃないですか」
 たとえ正論だとしても更に状況が悪くなることに焦る僕が食い下がると、今度は遠藤さんが申し訳なさそうに正論で返してきた。
「でもエイト君。先輩だって受験とか控えているだろうし」
 そうだった。
遠藤さんの言葉で思い出したけど先輩もまた受験生だったのだ。図書室での僕の想像はあくまで想像に過ぎない。普段何を考えているかわからない彼にだって大学に行く権利はあるのだ。
「いや、受験はどうでもいいんだけどね」
 やっぱりどうでもいいのか。
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