演っとけ! 劇団演劇部
 僕は小劇団の芝居を見て感動し、過去の僕と同じように間違った演劇のイメージを持っている学校のみんなにそういう芝居を見せて考えを改めてほしいというようなことを、掻い摘んで話した。
 遠藤さんとのことは全て掻い摘んだ。
「ふぅん」
 それでも御手洗君には僕の雑念を全て見透かされているように思う。
 彼もあの『レイちゃん呼ばわり事件』のときに教室にいたわけだし、わざとらしいくらいに遠藤さんのことが出てこない僕の説明では鋭い御手洗君じゃなくても何か感じるはずだろう。けれど、御手洗君はそんな庶民の色恋沙汰などには興味がないみたいだった。
「でもさ、みんながイメージしている今までの演劇部と、栄斗君の作る劇団演劇部はどこが違うの?」
「どういうこと?」
 庶民の僕には御手洗君の質問の意味が始めは理解できなかった。
 すると彼は少し切り出しづらそうな顔をしてから言葉を続けた。
「仮に人が集まったとして、学校中の生徒がみんな感動するほどのモノが作り上げられる確証はあるのかなぁ。だって演じるのは同じただの高校生のわけだろう?」
(そうかっ!)
 御手洗君の言わんとしている事がやっとわかった。
 僕は、ただ小中学のときに見ていたヒドイ演劇と比べて、声を必要以上に張り上げたり、王子様とお姫様が出てきたりしなければ大丈夫だとなんとなく想像していたけどそんなわけがない。
 遠藤さんがいくら全国区レベルで可愛かったとしても、それだけで演劇のイメージ全てが変わるわけがないのだ。
 僕がやろうとしていることも他の演劇部となんら違いがないのかもしれない。
 御手洗君は、僕が自分の伝えたかったことを理解したのがわかると、今度はストレートな言葉で問題解決の核心に迫った。
「僕が最初に『いい気がしない』と言ったのはただ生徒会に不満がある生徒を集めたところで、いい舞台が作れるとは思えないってことなんだ。それに演劇自体に関わろうと思う人もいないと思う」
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