演っとけ! 劇団演劇部
 御手洗君の言うとおりだ。いつの間にか僕もただの独りよがりになっていた。
「だけど今の栄斗君の話だと、目的は演劇部を復興させることじゃなくて演劇の認知なわけだろう? だとしたら…」
「ああ! 最初から役者に向いている人をスカウトしなくちゃいけないんだ」
 思わず立ち上がって大声を出してしまい、ここが図書室だということをすっかり忘れていた。
 静かに読書をしている他の生徒たちが一斉にこっちを見る。
 図書委員の一人が大きく咳払いをして、僕はそっと席に着いた。
 御手洗君は笑いながら
「そういうこと。ポイントは、目的を相手にちゃんと伝えることだと思うよ。『演劇はもっと面白い』ってことをまず協力者にわかってもらわなくちゃ」
と席を立ち、自習室のほうに足を向けた。
「また情勢が変わったら教えて。退屈なクラスの話よりもずっと面白いよ」
 御手洗君がクラスメイトに対して皮肉めいたことを言ったのにも驚いたが、多くの生徒に虐げられてきた僕らの行動を面白いと言って貰えたことがなにより嬉しかった。
 一年生なのに常に昼休みを図書室で過ごす彼もまた変わり者ということなんだろうか。
 僕は放課後になってから落ち込む遠藤さんと、何も考えていない相田先輩にこの時の話をしてこれからの計画を持ちかけた。
「でも、どうやって役者に向いている人を探せばいいのかなぁ」
 遠藤さんの意見は僕も考えていたことだ。
 プロのスカウトマンでもない僕らにそれを見分けることなんてできる訳がない。
「まぁ、学園祭までに間に合わすなら元々それなりに声量がある奴を引っ張ってこないとな」
と、相田先輩もまともなことを言う。
「他にわかり易い見分け方っていうと?」
「あとは滑舌がいい人とか、あまり恥ずかしがらない人のほうがいいと思うけど」
 声がでかくて、はっきりしゃべる恥知らずな人間。
 モヤモヤとする僕の頭の中に浮びだしたくない奴の顔が浮んでくる。
< 42 / 109 >

この作品をシェア

pagetop