演っとけ! 劇団演劇部
「あとは、それなりに見栄えが良ければ最高だろう」
 先輩の余計な一言で完全にアホ洸河が僕の中に出てきた。
 横の遠藤さんも同じだったらしく微妙な顔をしている。
「ま、まぁ、顔はそんなに良くなくても…」
「そうだよね。それよりもっと個性的な…」
 僕と遠藤さんが口裏を合わせるように目標を遠ざけようとしていると、一人考え込むようにしていた相田先輩がニヤリと笑った。
「いたな、二年に一人。アホっぽいやつが」
 どうやら先輩も同じところに行き着いたらしい。
「まさかレイさんのほうから誘ってもらえるとは思いませんでしたよ」
 こんな不本意な作戦があるだろうか。
 見事に晴れ上がった日曜日とは間逆に、僕の心はどんよりと曇っていた。
「おい、ジーパン。あまり堂々と歩いたら気づかれるぞ」
 隣には僕の中で今『休みの日まで会いたくない人ランキング』堂々の第1位に輝いている相田先輩が、チェック柄のハンチング帽にサングラスをかけた怪しいファッションで活き活きとまさに無駄に輝いていた。
「よし、行くぞ。ジーパン」
 ちなみにさっきから出てくる『ジーパン』とは今日の僕のあだ名だそうだ。
 アンパンといちご牛乳を手にした先輩はどうやら探偵のつもりらしい。らしいというのは刑事と探偵の設定がごっちゃになっているからだ。
「ほら、しっかり付いて来いよ。ワトソン君」
 おい、ジーパンはどうした。
 日曜日で歩行者天国になっている駅前通りは人ごみにあふれ、その中を相田先輩は文字通り縫うようにジグザグですばやく移動している。
 そして僕たちから少し離れた前方には麗しき遠藤さんと、アホらしき洸河が並んで歩いていた。つまり僕と相田先輩は尾行中なのだ。
(ああ、僕の思い出の街が汚されていく)
 目線の先にいる二人は、かつて僕と遠藤さんが楽しく会話していた道を同じように歩いている。
 そしてこれからもまさに同じ道を歩もうとしているのだ。
「僕は今まで帝国劇場のような場所でオペラなどしか見たことがなかったので、今日は楽しみにして来ましたよ」
< 43 / 109 >

この作品をシェア

pagetop