演っとけ！　劇団演劇部
　劇場を出てきた洸河が遠藤さんの肩に手を回しているのを見て、僕は驚愕した。
　なんてこった。遠藤さんも笑顔で洸河と話をしている。
　もしかして、二人は。
「レイもなかなか、いい演技してるな」
　横で相田先輩がそう言って、僕はハッとした。
　そうか、これは遠藤さんの演技なのだ。
　確かにここで嫌な顔をするわけには、いかない。
　僕はなんて残酷なこと（殆ど相田先輩が立てた作戦だが）を遠藤さんに頼んでしまったのだろう。でも、遠藤さんが役者をやり続ける限り、こういうことはこれから何度でも舞台の上で起こりうることなのだ。
　僕がここで嫉妬をするような了見の狭い男では、（近い）将来遠藤さんと付き合っていくことなんてできないに違いない。
　遠藤さんがテレビドラマなんかに出ちゃうような女優になってしまったら、きっとキスシーンもあることだろう。
　その頃にはきっと何度も僕は交わしているのだろうけど、それでも他の男とするというのは許したくない。
　いや、でも恋愛ドラマに感動的なキスシーンは必要不可欠だ。
　アイドルとして女優として時に歌手として活躍する遠藤さんの未来を僕のジェラシーで阻むことは良くない。
　事務所側にも僕と付き合っていることは絶対に隠し通すという約束のもと、高校の頃から付き合っている一般企業のサラリーマンである僕との交際を認めてもらっているのだ。
　きっとばれたりしたらスキャンダルで大変なことになるだろう。
　ワイドショーも連日その芸能ニュースがトップだ。
　僕の住む高級マンションにもカメラマンと記者が殺到するに違いない。
　彼女は映画出演の発表会で
「彼は一般の人なので、マスコミの方も騒ぎ立てるのはやめてください」
とかなんとか訴えちゃったりして、事務所サイドも人気が出てしまった彼女をクビにすることは出来ず、ここは早めに記者会見を開いたほうがいいという判断を下すのだ。
　赤坂にあるホテルで行われた記者会見には深夜にも関わらず１００人を超える報道陣が集まった。
　僕も事務所に呼ばれ、顔は出さないという約束のもと心身ともに疲れている彼女と並んで会見に応じることにした。
　
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