演っとけ! 劇団演劇部
 僕は車両の頭から歩いて探してみたけど、結局見つけることは出来なかった。
 もしかしたら、彼もあの時はたまたま早かっただけなのかもしれない。
 学校に着くと、陸上部を始め、野球部、サッカー部など、多くの運動部の生徒が校庭でランニングをしていた。
 朝からご苦労なことだ。
 いや、彼らにとってはあれが当たり前の生活なのだろう。
 同じ時代に同じ学校に通う同じ高校生であっても、過ごし方は人それぞれだ。
 僕らは程ほどの規則と、それなりの自由の中で、遊んだり、部活をしたり、恋愛をしたり、悩んだり泣いたり笑ったりしながら3年間を過ごすことが出来る。
(僕もあの中にいたのかもしれないなぁ)
とグラウンドに出来ている生徒の輪を見ながら校舎に入っていった。
 とはいうものの、ホールルームまでまだ1時間近くあるのに僕はすることがない。
 有意義な高校生活を送っている彼らを見た後に、教室で寝るのはちょっともったいない気がしたので、僕は校舎の中を散策することにした。
 もしかしたら乗り合わせた電車が違っていただけで、ドレッド頭も校内にいるかもしれない。
「あら、随分早くに来ているのね」
 職員室の前を通りかかったところで、担任の山崎先生に声をかけられた。
「いや、ちょっと早起きしちゃって…」
と、何故か照れている僕はふと
(そうか、先生なら生徒を知っている)
ということに気が付いた。
 僕が彼の特徴を山崎先生に話すと
「ドレッド頭? ああ、今野君のことだ」
と、あっさり名前が出てきた。
 わざわざ早起きする必要はまるでなかったわけだ。
 それどころか今野君は僕と同じ一年生で、山崎先生が顧問をしている放送委員会の生徒だった。
 とんだ灯台下暗しだ。
「見た目はアレなんだけどね。今、流れてるのも今野君がやってるのよ」
 先生が上を指差して言っているのは、校内に流れているBGMのことだ。
 これはクラシックだろうか。
 あまりに自然で僕は先生に言われるまで校舎内に音楽が流れていることなど全く気がつかなかった。
 って、ちょっと待て。
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