演っとけ! 劇団演劇部
「山崎先生に許可はもらったよ。ちょっと話があるんだけど、さ」
 僕は外見がかなり怖い彼にビビりながらも同じ一年生ということを意識して、なるべくフランクな感じのタメ口で話しかけた。
「あっそ。俺は、ないね」
 終始ミキサーから目を離さず、ヘッドホンをつけている今野君がそう言って、僕らの会話は終わった。
 いや、終わっちゃダメだろ。
 今野君は機材に新しいCDを入れ、今流れているCDの音量ツマミをゆっくりと下げながら、別のツマミを静かに上げていった。
 それはまさに僕が演劇の本で読んだ音響のオペレーションと同じ動きだった。
「あっ、それ…」
 僕が思わず声に出して指で示すと
「何だよ?」
と、彼はやはり振り返らず面倒くさそうに聞き返した。
「一緒だね。その…演劇と」
「演劇?」
「うん、実は今野君にお願いがあって来たんだ」
「お願い?」
 今野君はオウム返しのように聞くだけで、あまり興味がなさそうだ。
怖い外見も手伝って意気消沈しそうになるけど、ここで負けるわけにはいかない。
「今、劇団演劇部を立ち上げようとして仲間を集めているところなんだ。そこで…」
「断る」
と、僕の説明が途中のうちに今野君はバッサリと会話を終わらせた。
 いや、だから終わっちゃダメなんだって。
「ちょっと待ってよ、最後まで話を聞いてくれたって」
「聞かなくてもわかる。ようは俺に音響のオペレーションをやれってんだろ?」
 会話を早く終わらせる能力だけでなく、意外と彼は頭の回転も早いらしい。
「俺は忙しいんだ。悪いが他を当たってくれ」
 他はもう当たってるんだよ、と言ってもしょうがない。
 ここは一度引き下がって作戦を練り直すことにしよう。
 放送室を出ようとドアノブに手をかけたところで僕は山崎先生の言葉を思い出した。
「あっ、そういえば実験ってなんなの? 電車のサウンドとかってやつと関係あるのかな」
 すると今野君は初めてキャスター付きの回転椅子をクルリと回し、ヘッドホンをはずして振り返った。
「どこで聞いたんだ、その話」
< 60 / 109 >

この作品をシェア

pagetop