演っとけ! 劇団演劇部
 そして、現在に至るのだ。って、肝心なところが省略されているじゃないか。
「エイト君、MC。MC」
 キーボードの前にいる遠藤さんが後ろから声をかけてきて、僕は慌ててスタンドマイクをつかんだ。
「どうも…」
 すいません、バンド名なんですか?
「『大成とその仲間たち』だ」
「『洸河ファミリー』じゃないんですか?」
 無駄に派手な格好をしたドラムの相田先輩とおしゃれなスーツを着こなすギターの洸河先輩が口々に勝手なことを言っている。
「お前が決めろ」
 ベースを持ったジョーが隣に来て、サラッと言うとまた離れていった。
「『大成ズ』だ、『大成ズ』」
「…どうも、『ジョーズ』です。本当は『バックスタイルエントランス』というバンドがやる予定でしたが、ヘルプで入る予定だったジョー以外のバンドのメンバーが全員食中毒を起しまして、急遽僕らがヘルプのヘルプという形でヘルプを…」
「いいから早くやれ」
 緊張のあまり何を言っているかわからなくなってきた僕に、ジョーが横から突っ込みを入れた。
 カッ、カッ、カッ、ダンッ!!
 相田先輩のカウントで演奏が始まった。
 ライトが派手な演出を施し、会場からは歓声が上がる。
(ああ、もうどうにでもなれ!!)
 僕は力の限り覚えたばかりの歌詞を叫びに叫んだ。
 どうせリハーサルも無しのぶっつけ本番だ。
 うまくやれって言うほうが無理な相談なのだ。
 視界の焦点も聴覚もどこにあっているかよくわからなかった。
 途中のギターソロで一息つく余裕もない。
 心臓はバクバク鳴りっぱなしでこのまま死んでしまうのではないかと思うほどだ。
 洸河先輩が前に出て観客に騒がれている。
 メチャクチャうまい。
 後で聞いた話だが実は洸河先輩は中学生時代に地元で伝説とまで言われていたバンドのメインギターだったらしい。
「どうして辞めちゃったんですか?」
 勿体ないという意味も含めた僕の質問には、フッと鼻で笑いながら寂しげな顔をして首を横に振るだけだった。
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