演っとけ! 劇団演劇部
 いつものキザなポーズだったけど、少し雰囲気が違った気がする。
 先輩にもきっと色々あったのだろう。
 ギターソロが終わって、洸河先輩のテクニックに焚き付けられたのか、ジョーの演奏にも力が入る。
 中学の途中までピアノを習っていた遠藤さんのキーボードも完璧についていっている。
 相田先輩に至っては、余裕だ。
 リズムキープどころか端々でオカズ(というらしい。らしいというのは、未だに意味がよくわかっていないからだ)をバンバン入れまくり、それがまた会場の盛り上がりをヒートアップさせている。
 この人だけは本当に謎だ。
 そんな調子で周りを見ている余裕は殆どなく、気が付けば無理やり頭に詰め込んだ3曲はあっという間に終わっていた。
 小さな控え室のパイプ椅子にどっしりと腰を下ろす。
 震えはいつの間にか収まっていたけど、今度は汗が止まらない。
 会場からアンコール、アンコールという声が聞こえる。
 1バンド15分という色んなバンドが参加するライブコンサートなのだから、そんなことは不可能なんだけど、OKだと言われても、もう一曲やる体力も度胸も覚えた曲も残ってない。
 顔を上にして放心状態の僕の顔にタオルが乗せられて視界が真っ黒になる。
 タオルを取って額の汗を拭うと、ジョーが
「無理な注文して悪かったな」
と、労いの言葉をかけてくれた。
「格好良かったですよ、洸河先輩」
「いえいえ、玲さんのキーボードもお見事でした」
 二人はお互いの演奏を褒め合いつつ、まだ興奮冷めやらぬって感じだ。
 相田先輩はパイプ椅子の上に立ってスティックを振り回し、まだまだ元気いっぱいだ。
「よしお前ら、アンコール行くぞ!」
 行きませんって。
「この後の奴らが入ってくるだろうし、そろそろ出ようぜ」
 ジョーがそう言って、僕らは次のバンドが準備しているステージに乱入しようとしている相田先輩を押さえつけて、ライブ会場を後にした。
 これでジョーの出した条件は、無事にクリアしたということになる。
< 63 / 109 >

この作品をシェア

pagetop