演っとけ! 劇団演劇部
 いきさつはさっき僕がテンパったままMCをした通りだ。
 ジョーが中学生のときの知り合いに、バンドのヘルプをほとんど無理やり頼まれたものの、本番前日の練習後に行ったラーメン屋で全員(ジョーは一人帰っていた)食中毒にかかったのだそうだ。
 バンドのメンバーはキャンセルするつもりだったが、告知までしているステージをドタキャンするというのはプロ意識(もちろんプロではないのだが)に反するとジョーはメンバーにキレて、一人でもステージに上がるつもりだったのだ。
 本番の朝、どうしたものかと考えているときに、さらに厄介ごとが増やそうとしている僕が来たので、始めはうんざりしたのだという。
 しかし、意外な僕の発言と劇団演劇部の説明の中に相田先輩と洸河先輩の名前が出てきて、今回の即席バンド結成を思いついたのだそうだ。
 ジョーが洸河先輩のことをバンドメンバーからまた聞きで知っていたのはわかるけど、相田先輩のことまで知っていたのは意外だった。
「まぁ、本当に叩けるかどうかは知らなかったけどな」
と、ベースを抱えて満足そうに言うジョーは実はパソコン部に所属していた。
山崎先生に放送委員会だと聞いたときは、勝手に帰宅部だと思っていたけど、作曲作業のためだという理由を聞いて納得だ。
 放課後は放送室か3階にあるパソコン室に入り浸っているジョーは、パソコン部でもないのに勝手に入って遊んでいる相田先輩と既に面識があったのだという。
あるとき作曲に専念していたジョーのところに、相田先輩が横から覗いてきて、ちょいちょいとキーボードを弄ってきた。
「てめぇ」
とケンカ腰で立ち上がったジョーに、相田先輩は平然と
「このほうがまだマシだ」
と部屋を出て行くと、残されたデータには、行き詰っていたドラムフレーズがきれいに作り直されていたのだ。
 話を聞けば聞くほど、相田先輩への謎は深まるばかりだが、考えるだけ徒労に終わる。
「今度は俺が助ける番だな。よろしく頼むぜ、エイト」
 ジョーがパンッと僕の手を叩く。
 とにかくやっとこれで2人目。
 音の達人、今野ジョーを仲間に引き入れたのだった。
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