演っとけ! 劇団演劇部
 代理の選手なんて用意していない。ジョーが来ている気配もないし、他に誰がいるというのだ。まさか、もう一度洸河先輩か、僕を出させるつもりなのか。
「では、彼女で」
と相田先輩は、遠藤さんを指名した。
(なんだって!)
 一斉にざわめく場内。
 寄りにもよって、女子の遠藤さんに戦わせようとするなんて、正気の沙汰じゃない。勝ち目とかじゃなくて、彼女がケガをしたらどうするつもりだ。一生残る傷なんか負った日には、誰が責任を取れるというのだ。
 僕が取ってもいいじゃないか。
「ふ、ふざけるな!」
 場内のざわめきをかき消すように、利一君が叫んだ。
「どこまで卑怯な人なんだ! 正々堂々と僕と戦ったらどうだ!」
 敵だけど、利一君の言うとおりだ。
ここまでやっておいて、遠藤さんと交代するなんて都合が良すぎる。女の子を危険な目に合わせてまで先輩は助かりたいのか。
「そんなこと言ったって、頭痛がひどいんだから仕方がないだろう。それとも、なにか?
君の拳法は、病気で苦しんでいる人に使えるものなのか?」
「くっ」
 確実に仮病なのに、よくそこまで言えるものだ。
(遠藤さんがやるくらいなら、もう一度僕が戦ってやる)
 痛むおなかを押さえたまま僕が立ち上がろうとしたそのとき
「それに…」
 相田先輩は、ニヤリと笑い視線の先を示した。
 そこには、既に立ち上がってストレッチをしている遠藤さんの姿があった。
「彼女は、やる気だぜ」
「そ、そんなバカな」
 僕と同じように利一君も驚いている。
 遠藤さんは勝つ気でいるのか。
 まさか清楚で可憐な女子高生とは仮の姿で、本当は格闘の達人だとでもいうのだろうか。
 もしくは女暗殺拳の使い手とか。
「大丈夫だよ。利一君を仲間にして、面白い演劇作ろうね」
 心配する僕を見て、遠藤さんはそう言うと前に出て行った。
 パンッ。
 右手を差し出した相田先輩の手を、遠藤さんが叩いてバトンタッチする。
「さぁ、始めましょっか?」
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