演っとけ! 劇団演劇部
 やる気満々の遠藤さんが利一君の前で背伸びをしながらそう言った。
「君、服は着替えなくていいのか?」
 主審が戸惑いながら遠藤さんに問いかける。主審の言うように彼女は、制服を着ているままだったのだ。
 このまま戦ったら、仮に遠藤さんが暗殺拳の使い手でも、下着が見えてしまう。
「大丈夫です」
 遠藤さんが元気よくそう答えると、場内から別の意味で歓声が沸いた。
「い、いいのか。私は容赦しないぞ」
 明らかに利一君は、動揺している。
「どうぞ、遠慮なく」
 スッと遠藤さんが構えると、道場の空気が静まりかえった。
 いいのかこのまま始めてしまって。
「始め!」
 僕の心配をよそに主審の掛け声で試合は開始されてしまってしまった。
「うおおおっ」
 利一君がすごい勢いで遠藤さんに向かっていく。
 スカートがめくれあがるようなハプニングの起こる前に早々に試合を終わらせる気だ。
 それはそれでありがたいけど、負けるのも困る。
「やぁっ!」
 しかし、そんな利一君の狙いと僕の懸念を吹き飛ばすかのごとく、遠藤さんは利一君の前で右足を高らかと蹴り上げた。
(ああっ!)
そんなことしたら、利一君サイドにばっちり見えてしまう。
 イヤラシイ歓声と同時に、利一君の突進が止まった。
彼女の勢いがついた蹴りは利一君の前をかすめ、スカートを完全にめくり上がらせた。
 あまりの勢いに後ろの僕たちの目にも中のものが飛び込んでくる。
 だけどそこには僕の期待、否、心配していたものはなかった。
 フランス映画のストップモーションよろしく華麗に舞う遠藤さんのスカートの中には、お昼のバラエティ番組のサングラスよろしく体育の時間に見慣れた短パンが履かれていたのだった。
 時間の止まっているかのような(落胆の)衝撃がほとばしる中、主審が叫んだ。
「一本!」
 
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