演っとけ! 劇団演劇部
 利一君を含む全員が呆気に取られている間に、遠藤さんの空を切った蹴りはそのまま大きく前に出て地面に蹴り、更にその状態から腰をひねって、もう一歩踏み出した形で繰り出した左の肘鉄が、利一君の脇腹にヒットしていたのだ。
「やったぁ!」
 遠藤さんがジャンプして喜びを表現し、利一君は両手と膝を同時についた。
「こんなバカな…」
 パンチ自体に威力はなかったから、精神的なダメージが大きかったのだろう。
 喜ぶ遠藤さんの姿を見ながら、僕は今回の件を振り返っていた。
相田先輩は最初からこれを狙っていたに違いない。今までのストーカー行為も、利一君の弱点を調べるためのものだったのだ。そして、あらかじめ遠藤さんにだけ作戦の内容を伝え、スカートの下に短パンを履かせておいた。
 全ては相田先輩の計画通りだったのだ。
「敵を騙すにはまず味方からと、宮本武蔵先生も言っていただろう」
 言ってない。
 相田先輩の頭痛もやっぱり芝居だった。
「さて」
 うな垂れる利一君の前に相田先輩は近づき、当初の約束を突きつけた。
「それでは、我々劇団演劇部に大人しく入ってもらおうか」
「…わかってる」
と悔しそうに利一君が答えた。僕らとしては望む結果になったわけだけど、これではあまりに利一君もかわいそうだ。
 僕としては、もっと気持ちよく入団してほしかった。彼の返答に、相田先輩以外の二人も僕と同じような顔をしている。
 そこに
「利一よ。お前が何に負けたのか、わかっているのか?」
と、ずっと主審をしていた胡散臭い師範代のようなオッサンが、利一君に話しかけた。
「…師範代」
 まんまだったらしい。
< 79 / 109 >

この作品をシェア

pagetop