演っとけ! 劇団演劇部
次の試合が50分後(つまり一試合しか挟んでいない。…この時点で36チーム6コート同時試合に無理を感じるのは僕だけか)に行われる僕らは、さっさと食事を済ませておくことにしたのだ。
「いやぁ、意外に強いんだな。俺らのチームって」
 小島がシーキチンマヨネーズおにぎりを頬張りながら、また調子のいい事を言っていると
「何言ってんの。相手が弱すぎただけでしょ」
と、桜井さんが僕より先に突っ込みを入れてくれた。
「でも、薫子ちゃんと玲ちゃんがいるから、心強いよねぇ」
 綾奈ちゃんの言う通り、この二人はうちのチームの主力だ。
 もともと中学のときにバレーボール部だった桜井さんは元より、遠藤さんもかなりいい動きをしていた。
 さっきの試合は殆どこの二人のサーブとアタックで点を稼いでいたといっても過言ではないだろう。
 綾奈ちゃんの期待通りのドジっぷりも、僕のミスをも二人はフォローし、かつ確実に相手コートにボールを決めていくのだ。
 もちろんそこには運動とはかけ離れたところにいそうな御手洗君の計算し尽くされた的確なトスと、小島の(たまに拾わなくてもいいボールも拾う)根性レシーブも一役買っていたことを付け加えておく。
「エイト君、また菓子パンなんだね」
 両親が共働きで僕の食生活を熟知している遠藤さんがそう言って
「野菜も食べなきゃだめだよ」
と、自分のお弁当からゆでたブロッコリーを箸でつまむ。
「はい」
 そして、箸を持った遠藤さんの手は、そのまま僕の口のほうに近づいてきていた。
(これは、もしかして…)
 その台詞こそ出てきてはいないが、このシュチュエーションは、男子なら誰もが夢見る噂に名高い
「あーん」「パクッ」
って、やつじゃないですか?!
 都合よく他のメンバーは、さっきの鈴木君との試合の話で盛り上がっていて、こっちに気づいていない。
 ここで照れたり躊躇しちゃダメだ。遠藤さんは何も考えず、自然の流れで取った行動に違いない。
 例えるならペットにエサをあげるようなものだ。ペットだっていいじゃない。
 ここで僕が人間らしい仕草をすれば、遠藤さんも意識して一度手を引っ込めてから、箸を渡してくるに違いない。それはそれで間接キッスになりえてドキドキものだが、この神聖な儀式を眼前にしては見劣りするのもまた事実。
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