演っとけ! 劇団演劇部
 それからファーストフードの店で遅めの昼ご飯を食べながら、僕は彼女に演劇のことを色々聞いた。
 あの手の小劇団は日本中、世界中に山ほどあるらしい。旗揚げ公演(一回目の公演)でつぶれてしまう劇団も多いとか、僕が今までイメージしていたような演劇をする劇団もたくさんあることとか、大抵は大学のサークルから卒業したOBがやっていることとか、そこからプロになってテレビに出ている役者の話とか、今の演劇事情からもっと基本的なことまで何でも聞いた。
「エイト君は何か部活に入らないの?」
 僕からの質問攻めが終わったところで、遠藤さんが聞いてきた。この会話の流れは充分わかっている。
 覚悟はもう出来た。
「もし良ければ、だけど」
「うん」
 遠藤さんもこれから続く言葉を理解している。
「演劇部に入ろうと思う」
 予想外だったのはここで遠藤さんに手を握られてまで歓迎されたことだった。小さな両手で僕の右手を包みながら、よろしくねと言う遠藤さんの顔をまともに見ることは出来ない。
クラスメイトの男子から孤立する不安が吹き飛んで、遠藤さんとの幸せな未来が僕の頭の中を支配しようとしていた。しかし、その想像が一番危険であることをわかっていた僕は
(不純な動機で入部するんじゃないぞ。小島君や今までの僕みたいに悪いイメージを持っている人にもっとちゃんと演劇を知ってもらうんだ)
と、強く念じた。かなり強く念じた。
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