演っとけ! 劇団演劇部
「わからないのか、このバカチンが! アレと言ったら『特訓』に決まってるだろ!!」
 わかるかっ!
 しかし桜井さんは僕の突っ込みを押し除けて
「そっか! 私も何かが足りないと思っていたんですよ!」
と、ここぞとばかりに相田先輩に駆け寄る。
 どこがいいんだよ、その先輩の。
 桜井お姉さまほどのルックスがあれば、他にどうとでもなりそうなものなのに…。
だけど今、問題にするのは桜井さんの男の趣味ではない。
 桜井さんの言う『足りない何か』が僕は特訓じゃないとわかっていた。
 僕たちの近くではいつの間にか購買のおばちゃんが営業の準備をし始めている。
 時計の針は11時50分を刺していた。
 そう、僕らに何よりも足りないのは特訓ではなくて時間だったのだ。

(えーっ。なんで誰も何も言わないのー?)
 体育館に入れば、いくらなんでも先生に教室へ戻されると思っていた相田先輩は誰からもお咎めを受けなかった。
 あとから聞いた話だが、今日の3年生のカリキュラムである『自習』は、自習とは名ばかりの休日なのだそうだ。
 朝のホームルームが終わったら着替えてそのまま遊びに行くか、図書館や予備校で勉強をする生徒が大半で、教室には誰もいなくなるという。
 だから先輩が1年生の球技大会を見学していても
「相田は本当に学校が好きだなぁ」
と冗談めかす先生もいるくらいで、問題は一切なかった。
 僕としては、問題だらけなのだが。
「よぉ。エイトと遠藤じゃん」
 そして、その問題たちに拍車をかける事態が更に巻き起こる。
「この前のライブ、軽音の奴らも来てたんだってよ。お前らのこと褒めてたぜ」
「こんな早くリベンジできるとは思わなかったな。カンフーではないのが残念だが」
 だああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!
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