演っとけ! 劇団演劇部
 バレーボールは自分のコートでミスさえしなければ、アタックを出来るほうが断然有利だ。ましてやさほどレベルの変わらない素人高校生の球技大会ならなお更のこと。
 ブロックできる奴は皆無に等しいし、強烈なアタックをレシーブで返すのは一苦労だろう。
 桜井さんは利一君のところはもちろん生徒のいないところを狙ってボールを返すので、確実に点が決まる。
 つまり御手洗君の作戦は、相手にわざとサーブ権を与えて、先制したまま時間制限で勝つという至ってシンプルなものだった。
 残り5分。いけるかもしれない。
 ミスをしないように意識するプレイは慎重になっている分、どちらのチームも体力と同時に精神をすり減らしていた。
 こうなってくると一番重要なのは、相手のサーブを始めに受けるレシーブだ。ここでボールを変な方向に弾いたら、リズムが崩れてアタックが出来なくなってしまう。
 うちのチームは殆ど遠藤さんか小島が受けていたのだけど、試合終了まであと3分のところでジョーが勝負をかけてきた。
「あんまりこういうのは好きじゃねぇんだけどな」
と言って打ったサーブは、綾奈ちゃんに向けて物凄いスピードで飛んでくる。
「きゃああっ!」
 まずい。
 FFチームも途中でこっちの作戦に気付いていたのだろう。
 終わるギリギリまで勝負を引き付けておいて最後に1セット取りにくるつもりだったのだ。
 あまりの出来事に誰も反応できていない。
 綾奈ちゃんは恐怖に目をつぶりながらも、両手だけはボールに合わせて構えを取っている。が、ジョーのパワーレシーブの前には一たまりもない。
 バンッという音と同時に綾奈ちゃんが尻餅をつく。
 思わず心配したくなるキャラクターに目を奪われてしまい、ボールを追う判断が遅れてしまった。
 綾奈ちゃんの(衝突に近い)レシーブで飛んでいったボールは天井高く上がっている。
落下地点はコート内だ。
 隣の、更に隣のコートだけど。
(もう間に合わない!)
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