クールな国王陛下は若奥様にご執心
「何か、よくないことが起こったのですね」
 静かに尋ねるリーレの言葉に、ネルは答えない。
 だが震える肩が言葉よりも雄弁に、リーレの言葉が正しいことを伝えてくれた。
 気丈な姉がこんな状態になってしまうような状況なのだ。
 不安が胸に募っていく。
 だがリーレは急かすことなく、姉が落ち着くまでその背を抱き締めていた。
 どのくらい、そうしていただろう。
 いつのまにか空は白くなり、夜の気配が薄れていく。嵐の気配は去り、静かな朝が始まろうとしていた。
「ロイドの祖国が、戦争に負けたの」
 やがて最初の光が地平線の彼方から顔を出す頃、姉はようやく口を開き、ぽつりとそう言った。
「え?」
 思わずそう聞き返してしまう。
 姉の声はいつもとは比べものにならないくらい小さかったが、聞き取れなかったのではない。ただその言葉の意味をすぐには呑み込めなくて、リーレは姉の肩から手を離して顔を上げる。
「……」
 同時に、抱き締めていた妹の身体から手を離したネルは、唇をきつく噛み締めた。リーレと同じ色の瞳から、涙が零れ落ちる。
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