欲しいのは、たったひとり。
スプーンを使ってカレーをすくい、パクッと食べる。


うんうん、いつもの味。

一応味見はしたんだけどね。



いつもの味ということを確認して、陽日くんの方を見ると。



「え、何固まってんの」


「美味しい。美味しい・・・・・!」




きらっきらの瞳を浮かべて、パクパクと食べ進める陽日くん。



「ちょ、ちょっと?そんなに早く食べたら・・・・」


「ごほっ、ごほっ」



はぁ。やっぱりだ。

喉に具を詰まらせたらしい。あんなに急いで食べる必要ないのに。


私は陽日くんの座っている席に回って、背中をさする。




「もー、しっかりしてよー?」


「おほっ、あ、ありがと」



咳き込みながらもお礼を言う陽日くん。


うん。少しは収まったみたい。



私は元座ってた席に戻り、再びカレーを食べ始めた。



「陽日くんってさ、こんな人だったんだね」



クスッと笑いながら、陽日くんに言う。



だってさ?あんなにかっこつけたような表情で「好き」って言った張本人だよ?


もっと爽やかで王子みたいな人だと思ってたんだけど。



あ、こんなこと思ったら失礼か。



「普通の男子だと思うけど」


陽日くんはそう言うけど、普通ではないと思う。



「財閥の御曹司が普通なのかなぁー?」



からかいながら言ったつもりだけど、陽日くんはカレーを食べる手を止めた。


「どうしたの?」


「・・・・・・、御曹司って言われるの嫌なんだけど」


「そうなんだ。ごめんね・・・・・!」


わざと明るい振りをして謝った。
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