優しい恋
その日も仕事で待ち合わせ時間に遅れていた。
おまけに電車も人身事故の影響で遅延している。

ようやく着いて、彼女の姿をそこに見つけてほっとした。
いつもちゃんと待っていてくれる。
と同時に、寒空の下待たせてしまって申し訳ないとも思った。

「…今日はもう帰る。」

今にも泣き出しそうな顔をしてそう告げる彼女に、俺は焦った。
彼女を泣かせてしまう要因がありすぎて、上手く言葉が出ない。
そんな俺に、彼女は、

「…ごめん。ただの私のわがままだから…。今のは忘れて。」

と言った。

いつも遠慮しがちな彼女。
痛々しくも笑顔で言ってくれることに心が傷んだ。
俺と付き合うことで彼女を苦しめてしまうなら、それは本末転倒だ。
彼女には笑っていてほしいから。

だから言った。

「俺のせいで君が辛い思いをしているなら、無理に付き合わなくてもいい。」

彼女が大好きだから。
笑っていてほしいから。
なのに、

「バカ!」

と言い残して、逃げるように夜の街へ消えていってしまった。

俺は追いかけることができずに、振り払われた手をぎゅっと握った。
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