ダイヤモンドの君は笑う
Please leave me alone.
雲一つない青空に、悠然と一本の白い線を飛行機雲が迷いなく引いて行く。
どうして、途中で曲がったりしないんだろう。
なんで、そんなに迷わず進めるんだろう。
「ーーおい、聞いてるのか?七原?
七原 実花(ななはら みはな)!」
ぽこんと音がして、頭に軽い衝撃。
頭を叩かれたことで、私の視線は空から目の前の無精な男に移った。
男の手には丸められた資料。
私の頭を叩いた、憎むべき相手。
歳の割にがっしりとした体格……体育の先生だろうか。
「聞いてるのか?もう一発必要なら、遠慮はしねぇぞ」
「聞いてます。ただ…空の」
「空?」
飛行機雲が、と続けようとして……やめた。
どうして飛行機雲が曲がらずにまっすぐ進んでいくのか、説明するのも面倒だったし、不思議に思ったと言う事実をこの人にわかって欲しいとも思わなかったからだ。
「なんでもありません」
「しっかりしろよ。ただでさえ季節外れの転校生なんだ。七原には悪いが試験も近いし、ボーとしてると内申に響くぞ」
「はぁ…」
曖昧な返事に、男…先生は露骨にため息をつき頭を掻いた。
面倒な奴が来たと、思っているのだろうか。
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