ダイヤモンドの君は笑う
Two people
「今日はもう帰るよ」
抱きしめられていた腕が解かれたかと思うと、神崎が言った。
「家庭教師、続けてくれる?」
ドアの取っ手を持つ彼の背中に問いかけると、
「今日の分のプリント、宿題にしておくよ。またね」
「うん。また……」
次の約束に、安堵している自分がいる。彼は優しい。昔から、私を妹のように甘やかしてくれた。兄のように、慕っていた。
それなのに…
「妹だと……思ったことはない…か」
優しさに、無遠慮に甘え過ぎていたのだろうか。苦しげに言われた言葉が、何度も耳の奥でリピートされる。
彼を知らずのうちな傷つけてしまっていたのだ。
私は重い気分のまま、リビングに向かう。若宮にも、私は甘えていたのだと、自覚していた。
ひとりにして欲しいと偉そうに言いながら、隣にいることを心のどこかで許してしまっていた。いても、いなくてもいい。いるならいるでいいし、いないのならそれで構わない。
どっちでもいい、とダレた関係に甘えてしまっていたのだ。
「……?」
リビングのドアを開けようとしたが、扉が何かにつっかえているのか、開かない。
一体どうしてと悩んだのはほんの一瞬のことだった。
ドアを突っ返させているのは、他でもない若宮だった。
若宮がドアに凭れかかっている。