ダイヤモンドの君は笑う
「どいて」
「……」
ドアの取っ手をガチャガチャと鳴らすが、若宮が立ち上がる気配はない。
「家庭教師…」
「え?」
「ごめん、気になってちょっとだけ覗いちゃった…」
若宮のことは、気づいていた。あの時した物音も、若宮が出したのだろう。
覗いた、ということは全部見られていたのか。
「二人って、ただの家庭教師と生徒じゃないよね…」
「関係」
「ない…けど。知らないから、知りたい。あの人は色々ミカのこと知ってる。それが悔しい。会ったばっかりとかそんなの関係なしで、俺……本当にミカのこと知らないから」
悪いことをしてしまった子供が、懺悔するような細々とした声だった。
いつもの戯けた余裕のある若宮とは、かけ離れ過ぎていて見失いそうになる。
「実る花って書いて、みはな。でもみんなにはミカって呼ばれてた。みんなっていうのは、前にいたところの友達……」
「前にいたところ?」
「アメリカ。10年近くいたの。でも、帰ってくることになって」
「帰って…来たくなかったの?」
頷いた。私と若宮の間にはドアがある。声を出さなければ伝わらないとわかっているのに、声が出なかった。
「辛いの。ここは……あんまりにも、変わらないから。昔のことを、思い出してしまう」