ダイヤモンドの君は笑う
当たり前じゃん。
そう言って笑おうとした。でもできなかった。若宮も、それ以上何も言わない。息遣いだけが、聞こえていた。
「らしくない、ミカ…」
起き上がった若宮の手が、今度は先ほどより長く伸びる。腕を掴まれ、引き寄せられる。
「偉そうにいわないで。私のこと、何にも知らないって言ったじゃない」
「それは、これから知っていくし!それに、全部知らないわけじゃない」
若宮の力強い言葉に、体が思わず後ろに逸れる。胸を押して離れようとすると、若宮の腕が腰に回ってそれを阻んだ。
「ミカは本が好き」
「は?」
「それから、空を見るのも好き」
「なに、バカにしてるの」
「まさか!正気だし。朝が弱くて、いつも遅刻ギリギリ。前髪の癖毛をいつもの学校のトイレで治してる」
いい加減にしろと、私は暴れる。
それがなんだ、そんなの、知っているといううちには入らない。人を知るということはそんなに簡単に軽々しく口にしていい言葉ではないのだ。
「甘いものが好きで、毎回休み時間に飴を口に含んでる。授業中も舐めてるでしょ?うるさいのは苦手特に女子の高い声。あと吹奏楽部のトランペットも苦手」
片腕だったのに、いつの間にか両腕が腰に回っていた。
「可愛いものが好きで、絆創膏とかは絶対柄入り。毎日お昼はイチゴ牛乳。体育が苦手で、よく保健室に逃げてる。“一人にして”が口癖」
その言葉に、私は手を振り上げる。
ほぼ無意識だったのに、若宮は分かっていたかのように頰の前で私の手を受け止めた。
握り締められた手が、熱い。
「それから…俺のことが嫌い」