ダイヤモンドの君は笑う
その場に崩れ堕ちそうになった瞬間、声がした。
微かに、鈴の音が声と重なっている。
「リン……?リン!」
雨の音に負けないように大声で呼び掛けると、返事が返って来た。毎日飽きるほど聞いて来た、気の抜ける間抜けな猫の声だった。
声がしたところは、工事現場の立て札のその先。何かの工事で空き地に穴が空いていた。
声は確かにこの先からした。
立て札を超えて、穴に落ちないように用心して覗き込むと、小さな女の子と、女の子に抱きかかえられた愛猫。
「リン!!」
そう叫ぶはずだった。
だけど、できなかった。
視線が、奪われていた。
探していたリンよりも、雨に濡れた愛猫よりも、今日初めてあった小さな女の子から、目が離せなかった。
女の子は、しっかりとリンを抱きしめていた。しっかりと抱きしめて、守るように一歩下がる。
綺麗な金色の髪が、雨に濡れていた。
女の子と目が合う。
逸らさない。逸らさせてれない。
小さな女の子の身体が、わずかに震えていた。
「…まってて!おとなのひと、よんでくるから!」
そう言って走り出す。
かつてないほど、胸がドキドキしていた。
なぜだろう。
猫が見つかったからだろうか、それとも…。
答えがわからないまま、家までの道をただひたすらに走っていた。