ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
「瑞樹、たぁ君とポニーに乗ろうな」

まるで催眠術をかけるように、うつらうつらする瑞樹に向かって副社長が何度も囁く。

「おっ、今、瑞樹が笑った。OKということだな」

そして、自己解釈でご満悦となる。

「喜田さん、ポニー中のポニーを用意してくれ」
「かしこまりました」

喜田さんがチラッとバックミラーを見ながら頬を上げる。
いい人だ。

「私も写真係として瑞樹君の勇姿を見学に行こうとするか」
「来なくていいから」

即答する副社長に社長がのんびり言う。

「お前は私の腕を忘れたか?」

うっと副社長が言葉に詰まる。

「思い出したか! 写真集も出すほどの腕前だったということを」
「写真集?」
「信じられないが、父は写真だけは本当に上手。玄人はだしなんだよ」
「信じられないだけは余計だ!」

――ということは瑞樹の可愛い姿を……。

「社長! どうぞよろしくお願いします」
「ほらみろ。本物の保護者がこう言っているんだ。楽しみだなぁ」
「本物ってなんだ! 僕だって奈々美と結婚したら叔父だぞ」

二人の言い合いに呆れることなく、また喜田さんが頬を上げる。
本当にいい人だ。
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