ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
副社長を好きだということをだろうか?

「例え副社長が私から離れても、私は副社長のことが好きです」

その返事に満足したからだろうか? 蘭子さんがサッパリとした笑みを浮かべる。

「分かったわ。流石、楓の娘ね。肝が据わっているわ」

嬉しそうに言いながら、「忙しくなりそうだわ」とフフフとまた魔女に戻る。



「奈々美、蘭子さんに苛められなかったか?」

副社長と再び合流したときの第一声はこれだった。

蘭子さんとの密会内容は誰にも秘密だ。でも……私も蘭子さんの思惑は分からない。彼女は『あとのことは任せて』と言っただけだ。ただ、一つ分かるのは、彼女は私の敵ではないということだ。

そして、部屋を出るとき『何があっても信じてね。悪いようにしないから』と再度言った。

言葉を変えれば『何かが起こる』ということだ。何が起こるというのだろう?

「いいえ、平和な時間でした」
「なら、いいんだ」

――そうだ、ずっと平和だった。

瑞樹と二人だけの静かなときを懐かしく思い出す。でも、そこに戻れと言われたら……私は戻れるだろうか?

自然に首が横に振れてしまう。

たとえ副社長の想いが姉にあったとしても、副社長に出会わなかったら私は未だに恋を知らなかっただろう。私の正体を知り、失恋に終わったとしても、そこに後悔はない。

この夏の猛暑のように、この熱い気持ちは思い出として残るだろう。
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