ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
別れは突然に
北海道から戻った後は、何事もなく淡々と日々が過ぎていった。

「副社長、来週でギプスが取れるということで、私はお役御免ですね」

八月の最終週。お医者様から診断結果を聞きホッと息を吐く。

「お役御免にはならない。医者が言っていただろう? 痩せた足のためにリハビリが必要だと」

フンと副社長がむくれる。

「お前は僕とそんなに離れたいのか!」
「でも、そういうお約束だったのでは?」
「臨機応変という言葉があるだろう」

『その時その場に応じて適切な手段をとること』という意味だが、完治したら同居は無効が一番適切な手段ではないだろうか?

そんな風に思っていると、「完治しても同居は解消しない」と副社長が断言する。

「瑞樹と別れて暮らしたくない!」
「何、駄々を捏ねているんですか」
「お前も本当は僕と離れるのは辛いだろう?」

もし、ここで『辛い』と言ったら……と考え、フルフルと首を横に振る。
流されていけない。副社長の言葉は全て姉の翠花を思ってのこと。

「そういう感情は全くありません」

毅然と答える私に副社長はおもしろくなさそうだ。

「お前は本当に素直じゃないな。まぁ、いい。それでも俺はお前たちを手放すつもりはない」

何と強引な。

「ですけど、引き止める理由がありません」
「だから何度言わせるんだ。お前と結婚すると言っているじゃないか」
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