ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
***

気持ちの持ちようなのかもしれないが、決心すると物事がスムーズに運んでいく……ような気がする。

「瑞樹、お土産をいっぱい買ってくるから淋しがるんじゃないぞ」

タイミングのいいことに副社長は三日間の出張でマンションを留守にする。アパートに荷物を運ぶにはちょうど良かった。これならお別れの挨拶をして、すぐに出て行ける。

「奈々美、瑞樹のこと、頼んだぞ!」
「今生の別れでもあるまいし」

剣持さんの言葉に副社長はムッとする。

「たとえ三日間だとしても、今生に等しいほど辛いんだ!」
「そう言って何枚写真を撮るおつもりですか?」

携帯のカメラでは飽き足らず、一眼レフカメラまで持ち出した副社長に剣持さんは呆れ顔だ。

「お時間大丈夫ですか?」
「ほら、奈々美さんが心配されてますよ」
「心配しなくていい、待たせておけばいい」

飛行機を待たせておけばって……プライベートジェットを持っている人しか言えない台詞だ。

「離陸時間が決まっているんですよ! そんな勝手なことできるわけないじゃないですか!」

剣持さんが目くじらを立てる。
どうやらプライベートジェットでも、空の規則には従わなければいけないようだ。

「全くどいつもこいつも邪魔ばかり!」

チッと舌打ちをしながら副社長は瑞樹に手を振る。

「瑞樹『もしもし』するからちゃんと出るんだよ」

もしもしとは電話のことだ。
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