ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
「真面目なら何か不都合でも?」」

だからだ、冷たい声が出る。

「聞こえたのか? 否、悪くないと思ってね」

意外な言葉にキョトンとする。

「褒めたのに、何だその顔は?」

今の褒め言葉だったの?
益々唖然とする。

「君は……山本奈々美だったな。奈々美は面白い奴だな」

いきなりファーストネーム。この人、女タラシ?
否、バイなら人タラシか。でも……。

「申し訳ございませんが、お世話は仕事の一環と考えておりますので、山本と苗字呼び下さい」

身分を偽る身だが名前は本物だ。できるだけ表に出したくない。

「ふーん、却下!」
「どどうしてですか?」
「君は僕に恩返しをするんだよね?」

まさか名前呼びも恩返しの一環だというのだろうか?

「だから僕が下した決定事項に逆らわないように!」

何と横暴な!

「最近退屈していたんだよね。周りがつまんない奴ばかりで」

副社長がニヤリと笑う。

「僕のことも名前呼びでいい」
「はいぃぃ!」

素っ頓狂な声が出る。

「拓也と呼んでくれ。これも決定事項だ」

何の罰ゲームだ! 意味が分からない。

「そっそそそ……」
「そんなことはできない……とは言わせない」

美しい笑みを浮かべた副社長が悪魔に見えた瞬間だった。
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