ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
「私、貴女たちのガードを副社長に頼まれたの」
「ごめんなさい、私もなの。初めから貴女が新堂奈々美さんだと知っていたの」

眉を八の字にした桜子さんも告白する。
何てこと!

「それもこれも貴女と瑞樹君を守るためだったの」

蘭子さんが言う。

「奈々美……」

あっ、と声の方を見る。

「慎司兄さん……それに、お父さん、お母さん」

袖の影から出てきた三人に唖然とする。

「奈々美、ごめんね。貴女一人に苦労をかけて」

母が私に縋り付く。
新堂コンツェルンと業務提携したと言ったが……来ていたんだと今更ながら思う。

しかし、流石に公衆の面前で父と兄が私に謝罪することはなかった。でも……二人の眼差しが瑞樹に向いたとき悟った。二人が深く後悔していることを。

「奈々美、受け取ってもらえるかな?」

ここまでお膳立てされたらNOとは言えない。
両手を差し出して花束を受け取る。

「キャーッ、奈々美、おめでとう!」
「おめでとう、奈々美ちゃん!」

美和さんと桜子さんが叫ぶ。

「ん?」花束の中心にキラリと光る物が見えた。副社長はそれに手を伸ばすと、「当然、これも受け取ってくれるよね」と言って私の左手の薬指にそれを嵌めた。

――と同時に司会者が一旦その場を締める。

「おめでとうございます! お二人の未来に幸あれ! では、これより新社屋披露パーティーと婚約パーティーに入らせて頂きます。皆様、どうぞご自由にご歓談下さい」
< 186 / 190 >

この作品をシェア

pagetop