ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
***

翌日、約束通り午前九時ピッタリに病室に入ると、副社長は「やっと来た」とばかりに用事を言いつける。

「僕は腹が減って死にそうだ。食い物を頼む」
「お言葉ですが、病院のお食事を召し上がったのでは?」

特別室ならそれこそ豪勢な病院食が出るだろうと想像していると……。

「断った」

副社長が答える。

「なぜ?」
「病人じゃないから」

はぁ? 病室にいるのだから病人だろう! 思わず突っ込みそうになるが堪える。

「僕は病人ではなく怪我人だ」
「――屁理屈ですね」

我慢しきれなくなり言葉が口を突いて出る。

「そんな偉そうなことを言ってもいいのかな?」

子どもか! 脅しで人を服従させようとするとは卑怯者め!

クソッと心の中で舌打ちをして、そうだ、と嫌がらせにマザーバッグからお弁当箱を取り出す。

「病院のお食事よりも、もっと口に合わないかもしれませんが、よかったらどうぞ」

フン、ど庶民の食事に舌鼓を打つがいい! 

「お前が作ったのか?」

「はい」と返事をすると、なぜか副社長はランチバッグをジッと見つめる。
描かれているのは瑞樹の好きなキャラクターだ。

「お前、こういうのが趣味なのか?」

まさかお弁当の中身よりも包みに関心を持たれ、突っ込まれるとは思いも寄らなかった。

「子供の好きなキャラクターです」

素っ気なく答えると、副社長の目がまん丸になる。

「お前、幾つだ! まさか援助交際の末に出来ちゃった婚でもしたのか?」
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